第83章 モか
「…全部演技か」
「スリルも時にはスパイスってな」
駆け寄ってくる三人の雄英生徒に背を向け、談笑しながら荼毘とMr.コンプレスがゲートへと足を踏み出した。
エンターテイナーの性か、体が全てワープゲートへと飲み込まれる直前。
演技がかった物腰でMr.が振り返り、ショーの最後を締めくくるかのように深々とお辞儀をしてみせた。
「そんじゃーお後がよろしいようで」
丁寧に彼が右手を上げ、胸の前へとその腕を振ろうとした瞬間だった。
突如輝かしい直線のレーザーが彼の左側から放たれ、彼の左頬と右手に命中した。
レーザーの発射地点、そこには。
敵の恐ろしさに飲み込まれそうになりながらも、1人のヒーロー科生徒として「友達を助ける」ことを「自分自身の恐怖」より優先した青山がいた。
草陰からMr.の口と右手が「直線上」に並んだのを目にした青山は、ガタガタと震える身体から、自身の個性を放ち、見事ネビルレーザーを命中させた。
数コンマ先に飛び出していた緑谷と轟に障子が追いついたのと同時。
緑谷の身体に激痛が駆け巡り、彼が膝から崩れ、轟と障子だけが落下していく3つの球体へと飛び込んだ。
障子が1つの球を掴み取り、轟が2つの球を掴み取ろうとした直前。
ワープゲートから伸びてきた荼毘の手が、轟の手よりも先に「2人」を掻っ攫っていった。
「哀しいなあ、轟…焦凍」
荼毘が嘲り、そう言った。
地面に障子と轟が転がり、即座に轟が這い上がった。
(ッ待て……!!!)
「確認だ。「解除」しろ」
「っだよ、今のレーザー…!」
(待てよ、待て……ッ!!!)
嫌だ
(連れて行くな…返せ…!!)
返せ
返せよ
「深晴を返せ!!!!」
不満げにMr.が指を鳴らした。
追いすがる轟の目の前に現れたのは、目を見開いたままの爆豪と、意識がなく前のめりに倒れ込む向。
深晴、と叫ぶ轟の声を聞き、彼女が微かに目を開き、視線を交差させた。
その瞬間。
轟の胸に、ドッ、と、斧が振り下ろされたような痛みが走った。