第83章 モか
轟が悲痛な声を挙げて彼女を呼んだ。
問題なし、とワープゲートに姿をくらましながら、満足げに荼毘が爆豪のうなじを捕まえ、向に手を伸ばした。
その瞬間。
呆然としていた爆豪がハッと一瞬で周囲を見渡し、向の背に、荼毘より素早く手を伸ばした。
ハッとした荼毘が向の襟を掴んだのを見て、爆豪が眉間にしわを寄せ、歯軋りをした。
バゴォッ!!!!
という爆音と爆風
向の背中に触れた爆豪の手のひらから、容赦のない爆破が行われた。
凄まじい爆風を背に受けた向の身体は目を見開いた轟の方へと投げ出され、襟を掴んでいた荼毘の手は爆風によって引き剥がされた。
轟が向を抱きかかえ、勢いを殺しきれずに2人が地面に倒れ込むのと同時。
自分の手のひらに飛び散った鮮血を見て、爆豪がぶわっと脂汗を浮かべた。
「おいおい…っどうしてくれんだ、待て黒霧!!」
「いけません、もう増援が来ます!」
「かっちゃん!!!」
「……っ」
幼馴染の呼び声に、爆豪は顔を上げ。
飛び込んでくる緑谷の背後。
地面に倒れこみながら、痛みに歪ませた顔を爆豪の方へと向けている向と目が合った。
「…来んな、デク」
『ッ……勝己…!』
自分のせいで
背中から血を流してもなお
そんな、切なげな声で自分の名前を呼ぶ彼女に
爆豪は、ただ一言。
「許せ」
そう、声もなく囁き。
向だけを見つめて、ひどく申し訳なさそうに笑って。
彼は敵の手中。
暗闇の中へと堕ちていった。