第83章 モか
「連れ帰るのはその爆豪と常闇だけでいいのか?可哀想に…向は選ばれないのか、そうか…!そうなんだな?額から血を流す少女を見捨ててそんな酷い仕打ちをしようってのか、なんて最低なヒーロー候補生だ!!」
「んなこと言ってねえだろ!!!」
「ッ待って、轟くん!!」
あからさまな、挑発。
しかし、頭に血が上っている轟は氷壁を生み出した。
「…アホが」
「いや待て」
仲間に抗議の目を向けている荼毘と、その鋭い視線を一身に浴びているMr.コンプレスは大きく後ろへ飛び退いた。
両者が立っている地点へとたどり着くためには、駆けても数秒かかる。
そんな「安全圏」へと本心を悟られずに身を退いたコンプレスは、もう一つのネタバラシをすることにした。
「悪い癖だよ、マジックの基本でね。モノを見せびらかす時ってのは…」
トリックが、ある時だぜ?
嘲るように舌を出したMr.コンプレスの舌先には、障子が先ほどから手に握りしめて離さない二つの球と、全く同じ球が乗せられていた。
球を握る障子の手のひらに、ガッと内側から圧力がかかり、彼の手が瞬時に無理やりこじ開けられた。
パッと手品のように障子の手から現れたのは、轟がMr.コンプレスと会敵した直後、放った氷の一片。
「氷結攻撃の際に「ダミー」を用意し、右ポケットに入れておいた。右手に持ってたモンが右ポケットに入ってんの発見したら、そりゃー嬉しいわな」
奪還したと思っていた爆豪と常闇。
これから奪い返そうとしていた向。
最低最悪なマジックのタネを見抜けなかったせいで、今となっては。
三人とも、敵の手の内だ
「「ーーーッ返せ!!!!」」
緑谷と轟が怒鳴り、駆け出した直後。
USJで遭遇した、1人のヴィランが仲間たちを回収しに現れた。
「合図から5分経ちました、行きますよ荼毘」
「…ワープの…!」
トゥワイスが「トゥッ!」と頭からワープゲートに飛び込み、トガが「ごめんね出久くんまたね!」と友達のような言葉をかけてきて、ワープゲートに吸い込まれた。