第82章 リ者
「向さん!!」
「深晴!!」
「向!!」
緑谷、轟、障子が打撃を受けた向を見て、彼女の名前を叫んだ。
駆け続けていた三人の目の前が突然拓け、整備された道にたどり着く。
そこには、敵らしい女子高生を麗日が組み伏せ、足に尖った注射針のようなものを刺されて反撃されている光景が存在していた。
「麗日!?」
「障子ちゃん、皆…!」
「!」
加勢に来たと思ったのか、敵の女子高生は麗日の下から飛び出し、森の中へと飛び込んで行った。
「人増えたので殺されるのは嫌だから、バイバイ」
つらっとした顔でそんな捨てゼリフを吐き、姿を消したヴィランを追うことはせず、三人が血を流している麗日と、木にナイフで拘束されていた蛙吹の元に駆け寄った。
「麗日さんケガを…!」
「大丈夫、全然歩けるし…っていうかデクくんの方が…!」
「立ち止まってる場合か、早く行こう」
「悪ぃ、こんだけ人いればもう大丈夫だろ。俺は深晴を助けに行く、B組の奴と爆豪の護衛は任せた!」
「えっ、轟くんどこ行くん!?」
「爆豪ちゃんを護衛?その爆豪ちゃんはどこにいるの?」
「え?」
後ろ髪を引くような発言をした蛙吹を、駆け出そうとしていた轟が振り返る。
「何言ってるんだ、かっちゃんなら後ろに…」
この非常時。
誰も油断する人間なんているハズなかった。
けれど。
「ーーーーッ!?」
緑谷たちが振り返ったそこには、いるはずの二人の姿が存在していなかった。
忽然と姿を消した常闇と、爆豪。
緑谷たちが息を飲むのと同時、頭上からハキハキとした、滑舌の良い声が降ってきた。
「彼なら、俺のマジックで貰っちゃったよ。こいつぁヒーロー側にいるべき人材じゃねぇ。もっと輝ける舞台へ、俺たちが連れてくよ」
よく響くシルクハットを被った男の声に、緑谷が叫んだ。
「返せ!!!」
「返せ?妙な話だぜ。爆豪くんは誰のモノでもねえ、彼は彼自身のモノだぞ!!エゴイストめ!!」
今日は「二人の」歓迎会をやるんだ!
自慢げに話してきた男が、「あっ」、と自分の手を見て恥ずかしそうに訂正した。
「おっといけねぇ…彼女を入れたら三人だな」