第82章 リ者
「誰か、向さんを見かけた人はいない!?敵接触直後、向さんは火事の方へ向かっていったはずなんだけど…!」
常闇が息を整えている間。
最後まで彼女と一緒にいたはずの緑谷が焦ったようにそんなことを言い出した。
「…火事の方へ?何でだ」
「きっと山火事を抑えてくれてるんだと思う、でも敵側を甘く見てた…早く助けに行かないと!」
「待て緑谷、おまえはもうその怪我じゃ無理だ」
「爆豪をひとまず施設へ連れて行こう、向はその後で…」
この中で、一番冷静さを保っている障子の言葉に、緑谷、轟、爆豪が同時に食ってかかる。
「時間がかかりすぎる、ダメだ!!」
「爆豪の護衛は頼んだ、俺が行く」
「るっせぇ、ヒロイン扱いすんじゃねぇ!!!」
(…この三人、向の事となると面倒臭いな…)
言い争っている場合ではないのに、いつもの如く言い争いを始める三人を障子が目を細めて眺める。
「広場は依然プッシーキャッツが交戦中。道なりに戻るのは敵の目につくし、タイムロスになる…!獣道を突っ切って、そのまま向さんを探しに…!」
ブツブツと呟き続ける緑谷に、轟が声をかけようとした時。
大砲を打ったような音が遠くから聞こえて来た。
(…!?)
青い炎が燻っている森の向こう。
一瞬、雷の兆しのような光が見えた。
「…おい、あれ…!」
轟は、体育祭で見たことがある。
あれはまばゆい光を放つ、プラズマ。
「ーーー深晴だ、あそこで戦ってる!!」
遠くの空中。
轟が光を発見し駆け出した直後も、光は何度も瞬いて、まるで「ここにいる」と彼女が示しているかのようだ。
「轟くん待って!障子くん、周囲の警戒を!」
「っ緑谷、おまえ…!」
「爆豪、おまえ中央歩け!!」
「指図すんじゃねぇ!!!」
駆け出した轟を先頭に、緑谷の怪我だけが気がかりだった障子も、渋っていた顔を頷かせて駆け出した。
その後を爆豪が駆け、最後尾を常闇が務める。
BZZZZという電磁波音が次第に聞こえ始め、遠くの空で、向が空中を飛び回り、巨大な改人と衝突し合っている姿が5人の目に視認できた。
大砲が鳴り響いているような両者の衝突音。
反射を使わなかったのか、向が改人の蹴りを受け、地面へと撃ち落とされた。