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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第82章 リ者




<荼毘、そっちはどうなってる?>


荼毘とトゥワイスが待機していた集合場所から少し離れた地点。
爆豪回収を告げてきた仲間からの無線連絡を受け、土煙の上がった地面を踏みしめていた荼毘が口角を上げた。
ゆっくりと歩き、足を止めた彼のつま先には、先ほどまで空中を飛び回り「荼毘仕様の脳無」と激戦を繰り広げていた向が横たわっている。


「…やっぱり細かい命令は脳無しには聞けねぇのか」


血が大量に流れ出している彼女の額を眺めて、荼毘が眉間にしわを寄せた。
彼は彼女の身体の横にしゃがみこみ、左手の指の背で、彼女の頬を優しく撫でた。


「痛かったろ…可哀想に」


でも、おまえのせいだからな。
荼毘は優しい声色で囁き、意識を失った彼女を詰った。


「…黙って俺の言うことを聞いておけばよかったんだ」


向と脳無の衝突に決着がついたのは、荼毘が横槍を入れて、彼女の眼前目掛けて青い炎を走らせたせいだ。
一瞬狼狽え、反射を解いてしまった向が脳無の打撃をまともに食らい、何メートルも上空から落下したのを確認した直後。
荼毘は彼女と二人きりになりたくて、「どっかの誰かでも殺してこい」と雑な命令を脳無に下した。
トゥワイスも置いてきた今、この場には二人しか存在していない。
森の奥の方で、女生徒の叫び声が聞こえてきた。
「向を傷つけず捕まえろ」、なんて簡単な命令すら記憶できず、「向を捕まえろ」というさらに簡単な命令に自己変換したあの能無が、誰かを襲っているんだろうということが分かった。


「目標回収達成だ。この通信後5分以内に「回収地点」へ向かえ」


荼毘が無線で指示を出し、グッタリとして動かない向の身体を優しく抱き抱え、先ほどの待機場所へと戻ろうと足を向けた時。
突如、暗闇から捕縛武器が放たれ、荼毘の喉元へとひっかけられた。


「…!」


荼毘が咄嗟に前へと踏み込み、背後から踵落としを食らわせようとしていた相澤の攻撃をうまく躱し、振り返る。
ギリギリと喉を捕縛武器で締め付け、引き寄せようとしてくる恐ろしい剣幕の相澤を睨みつけ、荼毘が笑う。
血を流し、意識がない彼女を見て。
相澤が言った。









「返せ…!!」









荼毘は答えた。









「ーーー…何で?」




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