第82章 リ者
助ける、という行為にはリスクが伴う。
だからこそヒーローと呼ばれる。
「このまま、俺と共に常闇を助けるか。爆豪と向のもとへ駆けつけるか…おまえはどちらだ?緑谷……」
ーーー友達を、選んだことはある?
ふと、彼女の言葉が緑谷の頭の中に思い浮かんだ。
自分は、確か。
彼女に答えた。
友達を選んだって。
友達を選べなくたって。
それで構わない。
だから、大丈夫。
僕もきっと。
友達を選べなんて言われたら選べない。
(……そうだ、選びたくなんかない)
たくさんの友達に囲まれて。
まるで夢みたいな日々を過ごしてきた。
選ぶなんてことしたくない。
選べるほど、今まで友達なんていなかったから。
選びたくないなら、選ばなくていいんだ。
彼女にもそう言ったじゃないか、嘘を言ったわけじゃない。
(考えろ……!)
選ばなくて済むような方法を。
どっちも選んで、どっちも助ける。
緑谷の背に強く追い風が吹いた。
まるで、誰かが背を押してきているかのようなその風は、脂汗を浮かべた彼の額を撫でていく。
怪我で発熱している緑谷に、一瞬だけ冷静さを取り戻させるかのように吹いたその風に、ひらひらと舞う木の葉を眺めて。
「………あれ………?」
気づいた。
ここから山火事までは距離がある。
それはさっき障子と確認した通りだが、おおよその方角ぐらいは分かる。
今吹いてきた風は、青く燃えている山の方から流れてきた。
(……違う、火事の範囲だけを囲うようにベクトルを操作してくれてるんだ、こっちに届く風まで操ってたら確実に消耗戦になるから…!でも、今の風、微かな熱気が…)
いくつもの可能性が緑谷の頭に浮かび、消えていく。
(ーーー火事、広がってないか?)
広がっていて当然、ではないことを緑谷は知っている。
火事を食い止めるため、彼女は緑谷とはぐれていったのだから。
だとするなら。
「……っ向さんに」
何かあったんだ。
そう言った緑谷の声に反応し、ダークシャドウが雄叫びをあげながら飛びかかってきた。