第82章 リ者
もし、この夜襲に来た敵が全員あのレベルなら皆が危ない。
その上狙いは生徒。
ペアを組んでいたはずの自分が引き止めなかったせいで、恐らく現在も一人で居るであろう向と、同じように狙われている爆豪を思い浮かべ、緑谷は森の中を駆けていく。
(ーーー!?)
ドォン!
と、遠くで非日常的な破裂音がした。
(なんだ今の音…銃声…!?)
ーーー皆どうなってる?
かっちゃんたちは肝試しで2番スタート。
動いていないのならそう遠くにはーーー
いないはず、と思考に意識を持っていかれていると、森の奥から黒い影のような巨大な手が飛び出して来た。
咄嗟に避けようと身体に力を入れた瞬間、マスキュラーに捻り潰された方の左腕から痛みが駆け巡り、動きが止まる。
「……っあ…!!」
潰される。
そう確信し、痛みに悲痛な声を漏らした緑谷と影が接触する直前。
両者の間に割って入った生徒がいた。
「障子くん…!?」
「…その重傷、もはや動いていい体じゃないな…友を助けたい一心か。呆れた男だ」
ベキバキと破壊の限りを尽くしている影の中心に緑谷が視線をやると、そこには暴走したダークシャドウに飲み込まれて抗い続けている常闇の姿があった。
「俺から…っ離れろ!死ぬぞ!!」
「常闇くん!!」
常闇の個性は、闇が深いと制御が利かない。
障子の複製腕が敵によって切り落とされたことで彼のタガが外れ、今や見境なく破壊を繰り返すだけのモンスターと化しているという。
つまり、この道を通りたいなら、まずダークシャドウをどうにかしなくてはいけない。
血を流し、友人の個性に命を狙われているという現状に障子は焦る様子を見せず、ただ声を潜めて、背に庇ったままの緑谷に問いかけてくる。
「光…火事か施設へ誘導すれば静められる。緑谷。俺はどんな状況下であろうと、苦しむ友を捨て置く人間になりたくはない」
おまえは、あの二人が心配でその体を押してきたのだろう?
障子は常闇から視線を外さず、提案した。
「まだ動けるというのなら、俺がダークシャドウを引きつけ道を拓こう」
「待ってよ、施設も火事も距離がある…そんなの障子くん危な」
二人の話し声を聞きつけ、ダークシャドウが再び猛威を振るった。
なぎ倒されていく木々の下敷きにならないように障子が跳び抜け、緑谷に選択を迫った。