第82章 リ者
ーーー緑谷と相澤が散開した直後
「あーんもう近いっ!アイテム拾わせて!!」
未だヴィランとの戦闘を続けていたプッシーキャッツの虎とマンダレイ。
「しつこっ…」
「い、のはおまえだニセ者!とっととシュクセーされちまっえぇ!?」
スピナーに切りつけられそうになっていたマンダレイに助太刀をする形で、緑谷が飛び込んできた。
強化した彼の足と衝突したスピナーの武器は散り散りになり、見るも無残な得物となってしまう。
「マンダレイ!洸汰くん無事です!」
「君…!」
「相澤先生からの伝言です!テレパスで伝えて!!A組B組総員ーープロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!!」
(いいんだね?イレイザー…!)
<A組B組総員、戦闘を許可する!!!>
マンダレイの伝達がテレパスによって味方全員に発せられた直後。
腕を投げ出して足だけで着地のバランスを取っていた緑谷が再び駆け出した。
「すぐ戻りな!その怪我尋常じゃない!」
「いやっ…すいませんまだ!もう一つ…伝えて下さい!敵の狙い、少なくともその一つ…!!」
(かっちゃんと、向さんが狙われてる…!分かっていたら彼女とはぐれたりしなかったのに!!)
向は具体的な地点を言葉にして、「ここで待っている」とは言わなかった。
しかし緑谷には、彼女が洸汰の保護よりも優先して赴くべき場所があるという自身の判断に従って動いたことをよく分かっていた。
(このままだと、どっちにしろ皆火事で逃げ場を失う!彼女はきっと火事を押し留めに行ってくれたはずなんだ…!)
個性「ベクトル変換」を持ち、自然に直接干渉できる力を持っているのは緑谷が知る限り、この場に居合わせた人間の中で彼女だけだ。
だから向は緑谷に洸汰の保護を任せた。
どの程度まで水を出すことが可能なのか、まだ洸汰の個性のキャパが不明確な状態で、山火事の規模が広がっていくことを放置するのは得策ではない。
彼女が思い描いていたのは、ヴィランに勝って、その後消火活動を行い、尚且つ洸汰の負担を減らす展望。
向とはぐれる直前、緑谷も彼女のその意思に賛同した。
しかし期待していたこの騒動の行く末が、マスキュラーとの死闘を耐え凌いだ緑谷には、今となっては「楽観視しすぎていた」ように思えて仕方ない。