第81章 Ⅰの
あの言い草は完全に生徒がターゲット。
ならやむを得ない、生存率の話だ。
彼らに自衛の術をーーー
「本当にあいつ、オールマイトがいない今後を憂いてんのか?ならなおさら全力で授業にだって臨むだろ。信頼できる仲間だって作るに越したことはねぇ。けどあいつは、どっかまだ他人と一線を引いてる」
ふと、同期の言葉が頭を過ぎった。
(……そんなわけない)
自分で選んだ仕事だと、身体が砕けようが心が裂けようが血生臭い戦場をただ独り駆け抜け生きてきた。
人らしい生活を送ることすらままならない孤独を身のうちに飼い慣らし続けて、他人の為だけに命を投げ出し続けるようなふざけた毎日。
繰り返す日々に興味がなさすぎて、いつ死んでも構わないと思っていた頃もある。
(……そんなわけがない…!)
つまらない人生を生きてきて、ようやく訪れた彼女との日々。
特別な出来事がなくたって。
一日の予定がまっさらだって。
彼女とあの家に存在しているだけで、幸福だった。
2人だけの秘密を共有する。
ただそれだけの事が、驚くほど世界を彩った。
誰が為に戦うかと聞かれれば。
彼女をまた独りにしない為。
彼女に「ただいま」と伝える為。
彼女と共に在る為に、いつからか絶対に死ぬわけにはいかないと思うようになった。
もしも、そんな束の間の夢を見ていたことにすら気づかなかったのだとしたら。
本当に救いようがない。
公私混同しても尚、寝ても覚めても彼女に溺れ続けて。
彼女の視線を失いそうになった時、一度だけ思ったことがある。
彼女がもし自分と相容れない存在だったとしても、それでもいいと。
けど、そんなことはあり得ない。
あり得るわけがない。
誰が何と言おうと。
彼女が誰を憎み、誰を愛し、何を求めていたとしても。
越えてはならない一線を踏み出してしまうほど、彼女は愚か者じゃないと、自分は知っている。
彼女を問い詰めたあの夜に、彼女が言わないと決めた本心なら、本当に言う必要がないことだったというだけのこと。
彼女は自分の信頼を裏切るような人間じゃないという確信
誰に何と言われようが、それだけは譲れない