第81章 Ⅰの
「風向きが変わったな?」
そう問いかけてきたヴィランは笑ったまま、訝しげな顔をした相澤に話しかけ続ける。
「さっきまでと風向きが違う。これから…山火事が燃え広がる風向きになった。ベクトルが変わった。…さっきまで山火事が燃え広がらないように風向きを操作していた誰かがいたのか…それとも、たった今山火事が燃え広がるようにベクトルを変えた誰かがいるのか…どっちだろうな」
「……何が言いたい」
「さぁな」
男は崩れてきた自身の体の輪郭を眺めて、またニヤついて相澤へ視線を向けた。
距離を取りながらも、未だ捕縛武器に拘束されている男を引き寄せ捕らえようと相澤が武器を引っ張った瞬間。
「さすがに雄英の教師を務めるだけはあるよ。なあヒーロー、どんな隠し事をされていようが」
生徒が大事か?
そう嘲るように問いかけてきた男の体が泥のように崩れ始め、捕縛武器に込められた圧力によって、男の体が横一直線に分断された。
「…!?」
(さっきの発火が「個性」じゃないのか!?)
相澤が男の個性を消そうと目を見開いたが、敵の身体が崩れ落ちるのは止まらない。
「守りきれるといいな…また会おうぜ」
そんな言葉を言い残し、完全に姿を消した男を見て、施設へと逃げてくる集団の中にいた峰田が相澤に遠くから声をかけた。
「先生、今のは…!」
「…中入っとけ」
遠くの方で鳴っている地響きの音を聞き、相澤がそちらへと視線を向ける。
一旦情報を共有するため、プッシーキャッツの元へと駆け出し、道を急いでいた途中。
一人の生徒の声に呼び止められた。
「先生!!」
「…緑…」
(…!)
草をかき分けて現れたのは、両腕を血管の破裂や筋肉の断裂によってズタボロにした緑谷だ。
彼の背には洸汰がしがみついており、相澤には、大方彼を助けようとして戦闘に巻き込まれたのだろうということが容易に想像がつく。
おい、と何度矢継ぎ早に状況報告をしてくる緑谷の言葉を切って話そうとしても、怪我でハイになっているらしい彼は言葉を止めない。
「お願いします!」
「待て緑谷!!!」
言いたいことだけ言って立ち去って行きそうな彼を相澤が怒鳴り、引き止めた。
「その怪我…またやりやがったな」
「あ…いやっでも…」
「だから」
そして、相澤は決断した。
「彼女に、こう伝えろ」