第9章 お忘れではございませんか
昼休みのチャイムが鳴り終わって、数秒も経たない間のことだった。
「おい深晴」
爆豪は、戦闘訓練が始まる直前まで、あれだけ突っかかっていたはずの向に、自分から話しかけた。
あいつの態度は昨日とは違い、雰囲気も、声色も、向を呼ぶその呼び方さえも、何もかもが違っていた。
『なぁに』
とそんな爆豪に驚くことなく向は返事を返して、鞄から財布を出すと、自分を呼び止めた爆豪を見つめた。
「行くぞ」
『…どこへ?』
「決まってんだろ」
一度聞き返しただけですぐイライラし始める爆豪に物怖じすることなく、向は腕を組んで、じっと爆豪を観察した。
あいつの手に財布が握られているのを見て、向は少し考えた後、質問を投げかけた。
『昼ごはん?』
「ったりめぇだ、他に何があんだよ」
『…いや、いやいやいや…誘われたことないんだからわからなくて当然でしょ?』
そもそも、言葉足らず過ぎるのはそっちなんだから、聞き返されてすぐイライラするのはやめたまえ。
そう言って向はビシッと爆豪に指を指し、その指を片手で握って圧迫してきた爆豪に光の速さで謝罪した。
きっと断るだろうと思い、俺は鞄から財布を出して、向の方へと近づいていった。
『んー……まぁいっか。いいよー』
(…おい、ちょっと待て)
俺の予想を裏切って、向はにこにことした笑みを浮かべながら、爆豪に返事を返した。
「お、今日は向も一緒か!?ナイス爆豪!」
「爆豪、メシ行こうぜ!腹減ったー…って、向、誘われたのか?」
「珍しいな、訓練で何かあったか?」
昨日も爆豪と昼飯を食べていた切島、上鳴、瀬呂が集まってきて、爆豪と向は、物珍しがる三人に囲まれた。
「うっせぇ殺すぞ、はよ歩け」
「すぐ殺す殺す言うなよな!雰囲気悪くなるっつの!」
「向、今度俺とメシ行こうぜ。何好きなん?」
「あァ!?てめェアホ面、冗談は顔だけにしろ!!」
「冗談みてぇな顔に生まれてきたからガンガン行くしかねぇんだろ、邪魔すんなよ!!」
「いや、急にどうしたんだよお前ら…」