第81章 Ⅰの
「…まァ」
プロだもんな、と敵の男が呟いた。
施設の二階部分にあるベランダの手すりに捕縛武器を投げ、上空へと跳び、炎をかわした相澤。
彼が跳び降りてくるのと同時、敵の男が相澤へと手のひらを向ける。
「…!」
「出ねぇよ」
相澤の個性によって炎を抹消された敵は目を見開き、回避行動に移る。
しかし一足遅く、相澤が男を捕縛武器で捕らえ、地面へと押さえつけた。
自身の背に重くのしかかっている相澤を振り返り、うつ伏せになって拘束された敵が相澤の言葉を待つ。
しかし特に何のセリフを発することもなく、相澤はバキッと男の左肘の関節を外した。
「イッテ…!…おいイレイザーヘッド、違うだろ。おまえがまず「目的・人数・配置を言え」と聞いて俺が「何で?」と聞いてから、おまえがバキッとやるんだ、原作に沿えよ」
「シリアスにやっててもつまらないだろう」
「「つまらないだろう」じゃないんだよ、何真顔で言ってやがるイカレ野郎か。俺ら敵側だって原作に沿って真面目に動いてるんだ、公務員がメタいこと言うんじゃない。何のために前章でどシリアス貫いたと思ってる」
「シリアスにやるところはシリアスにやるそうだ」
バキッという音を立てて、相澤が男の右肘の関節を外した。
「おっとォいててててて簡単に関節を外すな、俺とおまえの見せ場だろ…!どれだけ森ん中でスタンバッてたと思ってる…敵だからってなめてんな?俺にも一定層のコアなファンはいるんだよ…!」
「目的・人数・配置を言え」
「ここで話を戻すのか、おまえ自由人すぎるだろ」
「次は右腕だ、合理的にいこう」
「おい…さっき自分がやったこと覚えてないのか。合理的にも何も思いっきり右腕やっちゃっただろ」
「足まで掛かると護送が面倒だ」
「徹底的に俺の発言は無視する気だな……仕方ねぇ……焦ってんのかよ?イレイザー」
原作通りの流れから勝手に逸れて、もはや両腕の関節を外してきたプロヒーローに舌打ちしながら、敵の男は相澤を挑発した。
燃え盛る森の方から、ドォン、という破壊音が聞こえてきたのに気づき、相澤が顔を上げる。
「…何だ…?」
「先生!」
森の方から駆けてきた飯田達に相澤の意識が逸れた一瞬。
敵の男は相澤の下から這い出し、捕縛武器で拘束されたまま距離を取った。
「…なぁ、プロヒーロー」