第81章 Ⅰの
「あぅぅ…私たちも肝試ししたかったぁ…」
「アメとムチっつったじゃん、アメは!?」
「サルミアッキでもいい、アメを下さい先生…!」
「サルミアッキ旨いだろ」
小細工はやめ、懇願してくる生徒たちをつらっと受け流しながら相澤が五人を補習会場へと連れてきた。
「あれぇおかしいなァ!!優秀なハズのA組から赤点が5人も!?B組は一人だけだったのに!?おっかしいなァ!!」
明らかに自分がおかしいテンションで絡んできていることに気づいていないらしいB組物間にからかわれているA組生徒たちを解放し、相澤がブラドキングと補習内容について議論を始めた直後。
その場に集まった全員の脳内に、マンダレイの声が響いた。
<皆!!!>
「あ、マンダレイの「テレパス」だ」
「これ好きービクってする」
「交信できるわけじゃないから、ちょい困るよな」
「静かに」
生徒たちを相澤がたしなめた直後。
敵と交戦中らしいマンダレイの指示が飛んだ。
<動ける者は直ちに施設へ!!会敵しても決して交戦せず、撤退を!!!>
「ーーーブラド、ここ頼んだ。俺は生徒の保護に出る」
直ちに施設へ、ということは。
肝試しに生徒たちを送り出してしまった後に敵が襲来したのだろう。
最悪な場面を思い浮かべ、相澤が教室を飛び出す直前。
「バレないんじゃなかった!!?」
そんな声が聞こえてきた。
ーーー断言出来る。あの子はおまえの知らない一面を持ってる。
隠し通したい、何かがあるんだ。
そう言った同僚の言葉が頭をよぎった。
しかし彼女だけが「そう」だという話はおかしい。
合宿が始まって三日目だ。
この合宿に来ている誰だって、敵側に内情を伝えようと思えば出来たはず。
(…考えたくないな…!)
施設を飛び出した相澤の眼前。
青い炎をたぎらせ、燻っている森の姿が見えた。
「…マズイな」
心に飛来したのは生徒たちの無事を案ずる焦燥感。
次いで思い浮かべたのは、やはり。
炎に大きなトラウマを抱えた彼女のこと。
駆け出そうとした瞬間、すぐ左側から声が飛んで来た。
「心配が先に立ったかイレイザーヘッド」
ブラド、と声を発した相澤の身体めがけて、彼の横に立っていた若い男の左の手のひらから青い炎がドッと打ち出された。