第80章 親不孝者のオリジン
ーーー君なら私の「力」、受け継ぐに値する!!
嬉しかったんだ。
何を望んでも、「役不足だ」と言われ続けて生きてきて。
初めて誰かに選ばれた。
けど、こんな凄い「個性」をオールマイトから譲り受けても、僕はまともに戦えない。
泣いている子ども一人助けてやれない。
身を挺して、誰かを庇うことしか出来ない。
もしも、こんな没個性の僕なんかが主人公のヒーローの物語があったとしたら。
人気投票では、かっちゃんあたりが一位に選ばれるに違いない。
だってあまりにも主役とは言い難い。
戦うたびにこんなズタボロになるヒーローなんて、人気は望めないことだろう。
ーーー「だって」じゃないよ
「…っ」
人気が出なくても。
物語の主人公に名乗りをあげるには、未だに役不足だと自覚していても。
もしも僕なんかが、誰かのヒーローになれるなら。
何を犠牲にしてでもヒーローになりたい。
ーーー「僕なんか」って、卑下しないでよ
(…っ…ワン・フォー・オール100%!!)
繰り出した緑谷の全力の一撃に、マスキュラーも真正面から拳を突き出した。
「ってええどうしたあ、さっきより弱えぞ!!」
「…っじょうぶ…大丈ぶ!!こっから後ろには絶対行かせない!!からっ…走れ!!!走れぇ!!」
「んのガキがてめェエ!!最っ高じゃねぇか!!」
「ゔゔ…っる、せええええええ」
「血イイイ見せろやあ!!!」
ミシミシと、骨が裂ける音がした。
足下の硬い地面さえ砕けるほどの圧力に、筋肉が、関節が、腕が砕けていく音が頭に響く。
走馬灯のように、緑谷の頭の中に記憶が駆け巡った。
『キミを大切に想う人の心が軋もうが、夢の為なら…そんなことは、どうだっていいの?』
あぁ、また。
彼女に怒られる。
だって、彼女の言う通りだ。
僕なんかを大切に思ってくれている人がいる。
僕なんかを信じてくれた人がいる。
(…ごめん、お母さん!!お母さんごめん!オールマイト、オールマイト!!!)
遠退いていく意識が途切れる寸前。
緑谷の視界の隅に、マスキュラーへ立ち向かう洸汰の姿が映った。