第80章 親不孝者のオリジン
『せっかく、恵まれているのに』
無個性だった僕を知らない彼女はそう言った。
「っとなったらそうくるよな!?ボロ雑巾!」
「悪いの、おまえだろ!!!」
だからそんなことを言われて、反省したつもりでも。
正直、自覚が無かった。
彼女の言葉は、その時の僕には届いていなかったんだと思う。
結局保須でも僕はまた同じように戦いへと身を投じてしまったし、遠い病院にまでお見舞いに来てくれたお母さんの泣き顔を見ても、申し訳ないなぁと思いこそすれ、心の底からの罪悪感は感じていなかった。
ショッピングモールで死柄木と遭遇して、警察沙汰になって。
塚内さんに呼び出されたオールマイトから、一年程前、向さんがあの屋上にいたと知らされた。
彼女は、初めから知っていた。
無個性ながらに夢を追い続けていた僕のことを。
知っていて尚、僕に言ったんだ。
無個性だろうが、諦められない夢を見続けていようが。
そんなことは、誰かの心をないがしろにする理由にはなり得ない。
自分の存在を大切に思ってくれる誰かが居るのなら、それはとても恵まれている、と表現するに値する。
だから簡単に身を挺するようなことはしちゃいけない。
簡単に命を賭けるなんて言葉は口にしちゃいけない。
(スピードも劣る、ダメージも与えられない!こいつは強い!!助けは来ない!!!ならーーー)
ーーー出久、もうやだよ。お母さん心臓もたないよ
「……っ」
分かってるんだ。
自分が怪我をする度に、大切な人の心を震わせる。
大切な人を道連れにして、傷つけて背負わせて、こんなの最低な自己犠牲。
それでも
「できる、できないんじゃないんだ…!ヒーローは!!」
頭で理解していてもどうにもならない。
考えるより先に身体が動いてしまう。
友達の苦言が届いていないわけじゃない。
大切な人をないがしろにしたいわけじゃない。
「命を賭して、キレイ事実践するお仕事だ!!!」