第80章 親不孝者のオリジン
あぁ、なんだか馬鹿にされている?
笑うタイミングでもないのに笑い声をあげた彼女の反応に、僕は少しだけ、ムッとした。
ーーーこれからは、手放し全力で応援するからね!!
僕のヒーローコスチュームは、母の気持ちの象徴だ。
あのコスチュームには。
無個性のくせに、ヒーローになりたいなんて言って聞かず、架空の夢を追い続けていた僕を16年間支えてくれた母の想いが詰まっている。
ーーーちょっと恥ずかしいから、みんなには内緒ね
初めてヒーローコスチュームを着た戦闘訓練の日。
そうは分かっていても、彼女に問いかけられて、確かに僕は気恥ずかしさからそう言った。
けど自分で言うのと周りに言われるのじゃ感じ方が全く違う。
思い起こせば、その時『内緒ね』と笑って言葉を返してくれた彼女は、恥ずかしいと言う僕の言葉を否定したりしなかった。
(…よくよく考えてみれば、向さんはあのかっちゃんと一緒に過ごしてる人なんだよな)
幼馴染に対して、あからさまな嫌悪感と嫌味な態度を隠さない彼と一緒に居る彼女。
笑って感じ良くしているから気にならないだけで、彼女もまた彼と同じように自分を見下しているのでは?
そんな事を考えて、すぐに頭の中で否定した。
(…いや、違うよな)
彼女はたった今、自らの「個性」で自分の身体の骨を懲りずに粉砕しにいく友人に苦言を呈したような人だ。
感じ良くしているだけの演技なら、そんな言葉は絶対に口にしない。
そもそもその苦言の真意だって、「自分の身体が傷つくたびに、自分を大切に思う誰かの心が傷つくことをいい加減自覚しろ」というものだ。
コスチュームを用意してくれたお母さんを馬鹿にするような人なら、そんなことを思いつきすらしないだろう。
(…なら、どうして今笑ったのかな)
そう思って。
遠くを見つめる彼女の横顔を眺めて、気づいた。
(…なんか…)
彼女の遠くを見る眼差しは。
自分が激情をぶつけ合った轟くんと酷似している。
けど、何かが違っている。
似ているようで似ていない。
『出久』
「…え?」
『どうしてそんなにヒーローになりたいの?』
キミの命は、キミだけのものじゃない。
『なのに…キミを大切に想う人の心が軋もうが、夢の為なら…そんなことは、どうだっていいの?』