第80章 親不孝者のオリジン
(ダメだ、二人のことは今考えるな…!あの「筋」みたいな個性、なんて速さ…!なんて威力…!集中しろ!)
ーーー目の前の、敵に。
ワンフォーオールを身体に巡らせ、緑谷がヴィランへと殴りかかる。
筋繊維で増強された男の右腕は緑谷の攻撃を軽く受け取めた。
ものすごい勢いで横に振り切られたその腕は、緑谷の身体を弾き飛ばす。
遠くの地面へと叩きつけられた緑谷を見て、男は口が裂けそうなほど笑みを浮かべ、声高に叫ぶ。
「俺の「個性」は筋肉増強、皮下に収まんねえ程の筋繊維で底上げされる速さ!!力!!何が言いてぇかって!?自慢だよ!つまりおまえは俺の完全な劣等型だ!!」
矢継ぎ早に言葉を紡ぐ男は腹の底から声を張り上げ、力任せにねじ伏せた緑谷に説教を始めた。
「わかるか、俺の今の気持ちが!?笑えて仕方ねえよ!必ず助ける!?どうやって!?実現不可のキレイ事のたまってんじゃねぇよ!!」
自分に、正直に、生きようぜ!!
まるで、自分が正義だと言わんばかりの男の言い分。
繰り返される暴力に血を流し、出血多量で朦朧とし始めた緑谷の視界の中心。
愉快そうに笑って拳を振り上げた男めがけて、誰かが投じた小石がゴン、という音を立て、男の後頭部に命中するのを見た。
「………あ?」
「ウォーターホース…パパ…ママ…も、そんな風にいたぶって…殺したのか…!」
その洸汰の言葉を聞き、緑谷は理解した。
目の前にいる男は、連続殺人鬼。
ヴィラン名、血狂いマスキュラー。
彼はウォーターホースという夫婦のプロヒーロー、洸汰の両親を惨殺した、指名手配犯だ。
「おまえのせいで…おまえみたいな奴のせいで、いつもいつもこうなるんだ!!」
「ガキはそうやってすぐ責任転嫁する。よくないぜ?俺はやりたいことやって、あの二人はそれを止めたがった。お互いやりてえことやった結果さ。悪いのは、出来もしねえことをやりたがってた…」
「てめェの、パパとママさ!!!」
洸汰に向かって拳が振り下ろされる直前。
緑谷が飛び出し、背後からマスキュラーへと殴りかかった。
予期していたマスキュラーは振り返り、緑谷を見上げ、心の底から笑い声をあげた。