第80章 親不孝者のオリジン
物心ついた時から。
何かに選ばれた経験なんて、無いに等しい。
幼稚園の演劇発表会。
わがまま真っ盛りな園児達に、先生が劇で演じる役の希望を取ることはなく。
本人達には何の確認もないまま、それぞれに適役が与えられた。
何ヶ月も前から楽しみにしていたヒーロー劇の主役に選ばれたのは、僕ではなくて。
けど、よく目立って人気がある彼が主役なら、仕方がないと諦めた。
「デクなんだからあたりまえだろ!」
主役の彼からしてみれば、たしかに残念な役回りだったけど。
(…来年は、きっと)
そう自分で自分を納得させて、僕に与えられた「大木の役」なんて脇役中の脇役を、自分なりに頑張った。
小学校の役員決め。
どの委員がいいかと聞かれたから、挙手して答えた。
「が…学級委員がいいです」
「えー!勝己がやるって言ってたやつじゃん!」
「先生男子二人で学級委員って出来んの?」
「ううん、学級委員は男女一人ずつ」
「じゃあ勝己でいいじゃん!」
「そうしようぜ、それでいいよな緑谷!」
「…えっ?」
勝己の方が、かっこいいし。
そう言葉を続けた一人の友達の言葉のあとに、何人かのクラスメート達の笑い声が聞こえてきて。
「おいデク」
「あっ、大丈夫!かっちゃんがいいと思う、僕は他の委員やろうかな…」
「あ?うっぜぇ、引っさげんならハナっから言うなや」
「ご、ごめん…」
それ以上、クラスのみんなに彼と比べられたくなくて。
僕はすぐに前言撤回して、考えた。
(…いつか、きっと)
また、来年。
いつか、きっと。
そんな言葉で諦め続けて、気づけば。
自分なんかが選ばれるわけがないという後ろ向きな確信が、僕の心に留まり続けるようになった。
「答えは、「知らない」でいいか?いいな?よしじゃあ…遊ぼう!!」
わかってはいる。
「誰にも選ばれなかった」と悲観するには、あまりに僕は声をあげなさすぎたんだろう。
選ばれるため、ライバルと戦おうとする努力も足りなかったんだろう。
「はっはは!血だ!いいぜこれだよ楽しいや!何だっけ!?必ず助けるんだろ!?何で逃げるんだよ!?オッカシイぜおまえ!!」
わかってはいても。
まるでかさぶたのように蓋をした傷口には、まだ痛みが残ってる。