第79章 襲撃者のターゲット
「向さん、先に施設へ行ってて!僕一人で行く、危ないから!」
『出久、洸汰を探しに行くの?』
「っ…多分、洸汰くんは秘密基地にいる。ヴィランと接触する前に、施設に連れて行かないと…!」
個性で全身を強化させ、木々の間を跳びぬけていく緑谷と並走し、木々の間を飛び抜けていく向。
一分一秒を争うこの状況で、向が空中で急停止し、空を見上げた。
「っ向さん…?」
『出久、本当に一人で大丈夫?』
「…えっ?」
『「中心」で待ってる。洸汰は水を出せる個性持ちだから』
あとで合流しよう。
彼女は短くそれだけ言葉を発して、背の高い木々の頂点を越す高さまでグンッと飛び上がり、どこかに向かって飛んでいってしまった。
「………えっ?」
彼女が飯田に『私が見ておく』と言ってから、まだ数分も経っていない間の出来事。
先に施設へ行けとは言ったが、まさかものの数分でついてきてくれる(ように見えた)彼女がそんな決断を下すとは。
数秒の間、呆然とする緑谷の鼻先を、何かを燻したような臭いが掠めた。
「…げほ、なんだ…?すごく焦げ臭い…!」
そこでようやく、緑谷は彼女の言葉の意味を理解した。
(…そうか…!けど、それだと向さんが一人になっちゃう…!)
今すぐに、洸汰と一緒に戻らなければ。
緑谷はまた全身に力を巡らせ、力強く地面を蹴りつけた。
息を切らして木々を跳び移り、森を駆け抜けて。
道に従って崖を駆け上がる時間すら惜しく、絶壁を無理やり登りきった、緑谷の眼前には。
(ーーーーッ!?)
ヴィランらしき大柄な男が「個性」で強化された左腕を振りかぶり、恐怖からか、腰を抜かして逃げることすら出来ずにいる洸汰を殴り飛ばそうとしている姿が。
(ーーー蹴り飛ばすか、無理だ間に合わな…!)
なら
答えは、一つ。
ドッ!!という衝突音が響き、洸汰を庇った緑谷の身体が吹き飛ばされる。
「…ぐぁ…!」
衝撃に耐えきれず、洸汰ごと地面を転がった緑谷の姿に、ようやく洸汰が気づいた。
「…っ!?何で…!!」
「んん?おまえは…リストにあったな」
激しく咳き込みながら、体勢を立て直す緑谷の数歩先。
完全に洸汰を殺す勢いで腕を振り下ろした男が、ニヤニヤと笑って立っている。