第78章 日陰者のシンパシー
だから、友達を選んだことがあるか、という彼女の質問に対して、役に立つ助言など一つも与えてやることが出来なかった。
しかしこの合宿中、彼女と度々言葉を交わすようになって。
なんとなくではあるが、彼女がどう返して欲しかったのか、今なら分かる気がした。
「…大丈夫だよ」
だから緑谷は、彼女に伝えた。
友達を選んだって。
友達を選べなくたって。
それで構わない。
一つや二つ苦手なことがあったって、眠れないほど気に病む必要なんかない。
「…僕もきっと、友達を選べなんて言われたら選べない。だって、夢みたいだ。こんなに友達に囲まれて、学校生活を送れるなんて思ってなかった。だから僕も一緒だよ」
君は一人じゃないよ、と。
そんなどこかで聞いた言葉を、穏やかに伝えてくれる友人を見つめて。
『……出久』
向が彼の名前を呼ぶのと同時。
5組目の麗日と蛙吹を送り出したピクシーボブが、眉間にしわを寄せ、鼻を猫のようにヒクヒクとさせ始めた。
「……あれ?」
「何この焦げくさいの…」
「黒煙…!?」
マンダレイが森の異変に気付き、仲間と意見をかわそうと横を向いた時。
ピクシーボブの身体が発光し、宙に浮いた。
「ピクシーボブ!?」
何かに引き寄せられるように遠ざかっていく彼女の手を掴もうとしたマンダレイの右手は宙を引っ掻き、急加速して地面と平行に飛び去っていくピクシーボブの身体が向かっていく先。
そこにはいつからいたのか、突如姿を現した男二人組が立っていた。
ガタイの良い男の方が肩に担いでいる巨大な棒めがけて引き寄せられたピクシーボブは、ゴツ、という鈍い音を立てて強く頭を打ち付け、小さく呻いて地面に落下した。
「飼い猫ちゃんはジャマね」
足下に倒れた彼女が意識を手放したのを確認し、ピクシーボブに危害を加えた男の敵は、担いでいたこん棒を彼女の頭の上へと乗せる。
予期せぬ事態。
暗い道のりへ足を踏み出す前に、突如降りかかってきた本物の恐怖。
身体を震わせ、峰田が叫んだ。
「何で…!万全を期したハズじゃあ…何で……何で敵がいるんだよォ!!!」
上ずった彼の声と、焦った顔をしているプロヒーロー達を愉快そうに眺めて。
もう一人の敵が名乗りを上げた。
「ご機嫌よろしゅう、雄英高校!我ら、敵連合…開闢行動隊!!」