第78章 日陰者のシンパシー
「少し予定変更が決まってな。その話をしていて遅くなった」
「おっ、来た来た!はいみんな注目!」
相澤がピクシーボブにまだ何かを伝えようとしていることに気づかず、彼女がA組の生徒たちに声を張った。
「腹もふくれた、皿も洗った!お次はー?」
「肝を試す時間だー!!」
ノリ良くピクシーボブの掛け声に返した芦戸を見て、相澤が浅く息を吐いた後、そんな彼女に重要なお知らせを伝えた。
「その前に大変心苦しいが、補習連中は…これから俺と補習授業だ」
「ウソだろ!!!?」
「すまんな、日中の訓練が思ったより疎かになってたのでこっちを削る」
逃げようとする生徒たちに一歩の逃走も許すことなく、相澤が捕縛武器で5人の補習対象者を捕縛した。
行くぞ、とリードのようになったそれを引っ張りながら相澤が踵を返そうとした瞬間。
グイッと武器が逆方向へと引っ張られた。
「…おい、大人しく…」
無駄な抵抗をしていると思しき生徒たちを睨みつけようと、相澤が振り返る。
そこには、片手で捕縛武器を引っ張り妨害しながらも、空いた片方の手で高らかに挙手している向がいた。
「…なにしてんだ」
『私も先生と授業が良いです』
「…あ?」
なぜ、こんなタイミングでデレてくるんだ。
いつもは甘えてくることなど皆無のくせに。
(…いや、待て。多分そういう意味じゃない)
先生と!授業がしたいです!とやたら必死にストイックさをアピールしてくる彼女を見て、相澤はほんの数秒考えた。
「……合宿三日目にしてようやくやる気をみせてくれているのに偲びないが、全体のタイムスケジュールに従え」
「先生、うちも!!うちも授業出たい!!」
『耳郎さんと私ホラーアレルギーなんですよ、怖い体験すると目と耳と口から血が溢れて止まらなくな「いやぁああ想像させんなぁああ!!」あいたぁあピンジャック眼球に刺すのやめて、響香!!』
「いいから大人しくピクシーボブの説明を聞け」
向に潤んだ涙目で見つめられ、相澤が一瞬固まった後、すぐに背を向けて歩き始めた。
「うわぁあ堪忍してくれぇ!」
「試させてくれぇええ!!」
担任に引きずられていく友人たちを見て、向がガクッと地面に膝をついた。