第78章 日陰者のシンパシー
「「あっはっはっは!口田大丈夫か!」」
「森の中へ行く以上、虫は覚悟だな」
「平穏の終焉…」
「まばゆい僕とペアになれば、暗闇なんてへっちゃらさ!」
口田の女子力を笑う砂藤と瀬呂に、マスクの向こうから声を発した障子。
物騒な言葉を呟く常闇に、どこかズレた発言をした青山。
「……ショートパンツ……」
「峰田さん、何か拾い食いでもなさいまして?ヨダレが滝のように出ていますわよ」
峰田は女子の肌の露出度が高くなる夏という季節に賛美の言葉をつぶやき続ける。
その彼の口から大量に流れ出ている唾液の原因を訝しんでいる八百万の隣で、蛙吹が怖がる麗日の手を握り、大丈夫よ、と彼女を落ち着かせようと試みる。
口田に離れてもらいたい気持ちを顔面に強く押し出している轟の近くまで来た飯田は、青ざめた顔をしている向に「大丈夫か、向くん?」と問いかけてきた。
『…大丈夫』
「寝不足が祟っているんじゃないか?最近ずっと、何かを思い詰めているようだし」
『祟っ!?…あぁなんだびっくりした』
俺に出来ることがあれば言ってくれ。
真面目に気配りしてくれる学級委員長に、向は『ははは、大丈夫だよ』と笑った。
『そんな思い詰めてる顔してる?』
「あぁ。合宿中聞き出そうかと思っていたが、君と駆け回り続けているうちに忘れてしまっていた」
『楽しかったもんね、追いかけっこ』
「あぁ!童心に帰ったようだった」
『懐かしいよね』
そう話す向の隣。
気づけば、遠くに立っていたはずの爆豪がいつのまにか隣に来てポジショニングしていた。
珍しく飯田との会話を打ち切ることなく、黙って声が聞こえる位置に立っている彼。
きっと今の話題は爆豪も興味がある話題ということなのだろう。
『…考え事があって』
「そうか、どんなことだ?よければ話してもらえないだろうか」
『………。』
緑谷、飯田、爆豪、轟、切島の視線が向に集中する。
口を開こうとしていた彼女はそんな彼らの視線に気づき、話すのをやめてしまった。
微笑を浮かべるだけにとどめた彼女に、緑谷が「向さ…」と声をかけようとして、爆豪に睨みをきかされ、たじろいだ一瞬。
生徒たちを待たせ続けていた担任の姿が、緑谷の視界に入った。