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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第78章 日陰者のシンパシー




肝試しが開催されるというコースの入り口。
珍しく時間になっても集合場所へ現れない相澤と、彼と一緒に行動しているのか、同じく姿が見えないブラドキングを待つ間。
生徒たちはこれから繰り広げられる闇の狂宴に向け、それぞれ思い思いの反応を見せていた。


「怖いのマジやだ…」


既に膝をガクブルさせて、そう呟いた耳郎の背後から、ふざけて上鳴が「わぁ!!」と声を出して両肩を掴む。
ウワァアアア!!!と叫んだ彼女に、上鳴は両の目にピンジャックを刺され、ウワァアアア!!!と似たような叫びをあげた。
肝試し!!肝を試すぞー!!!と声を発した葉隠の隣、両腕を振っているらしい彼女から微かに風を受けながら、尾白が「葉隠さんはお化けとか怖くないの?」と至って普通な会話を持ちかける。


「大丈夫か」


そんな生徒たちから一線引いて離れた地点。
なんだか顔色が悪く見える向に、轟が声をかけた。


『…大丈夫じゃない。今すぐ部屋に帰りたい』
「…怖いのダメなのか」
『ダメ』


彼女は深くため息をつき、肌寒いのか自分の身体を抱きかかえるように両腕をさすった。


「…。」


ボッ、と轟が左の手のひらに炎を生み出し、向の方へと差し出してくる。
向は一瞬で燃えた彼の手のひらにピク、と肩を微かに揺らしたあと、素直に焚き火にあたるかのように手をかざした。


『…暖まる』
「……。」
『前、保須でさ』
「……?」
『私の個性、役に立つって言ってくれたよね』
「…災害救助にか。言った」
『焦凍の炎も役に立つよね』
「……。」


轟は一瞬沈黙し、炊事の度に火起こしへと駆り出され続けたこの三日間を振り返った。
ただ薪に火をつけただけの轟に、ピョンピョンと跳び上がって喜んだ芦戸と麗日を思い出し。
ありがとう、とその度何度も聞いた言葉を頭の中で反芻した。


「……あぁ」


微かに笑う轟を見て、向は俯きがちに微笑んだ。


(……?)


そんな彼女に違和感を感じて、轟がまた彼女に声をかけようとした時。
足を登ってきていた蜘蛛の存在に気づいた口田が「キァアアア!!」と甲高い声を上げ、轟に抱きついた。


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