第77章 破綻者のレッテル
『……!』
まるで。
信じられないものを見るかのような緑谷の視線。
向は自分の名前を呟いた彼の声を聞き、ハッとした。
『……私が言いたいのは、ほら。洸汰からしてみれば出久もイカレ野郎の一人ってこと』
向は普段のように目を細め、柔らかい口調で話し始めた。
その雰囲気の変化に緑谷もハッとして、あわあわとしながら言葉を返す。
「…え?……あ、そっか…洸汰くんからしてみたら、僕の方がおかしな人間に見えるのか」
『……。』
「ごめん。多分僕、いま嫌なこと言ったんだよね」
何が嫌だったのか教えてくれないかな。
そう問いかけて来る彼に、向は黙って微笑み続ける。
少しの間沈黙を貫いていると、綺麗さっぱり土埃や汗を洗い流してきた生徒たちが炊事場に現れた。
『…また明日』
「えっ」
向はパッと話を切り上げ、肝試しの話題で盛り上がっている女子たちの方へと向かっていってしまう。
(うっ、女子の輪を乱しに行くのはキツイ…!)
完全な避難所の中へと身を移した向。
きゃっきゃと騒ぎ、先ほどの張り詰めた空気など感じさせない向の背を見つめている緑谷の傍ら。
疲れた様子の切島が、せっせと材料を運び続ける上鳴の隣でぼやいた。
「…肝試し、向と一緒になったら申し訳なさで死ねる」
「そしたら俺と交換してくれ!この合宿中全然近づけてる気がしねー!」
「そういやお前も向のこと狙ってたな…さらっと爆豪推しに移行しちまった、すまん」
「あぁ別にいいって!普通はみんな友情より彼女選ぶもんなのに、逆パターン行くだけでマジ尊敬するわ」
「…上鳴、おまえいっつも「友情より彼女」って言うけど、対比させんなら「友達より彼女」じゃね?」
「は?それ間違ってんじゃん。深晴だって友達なんだから「友達より彼女」はおかしくね?あーでも、たしかに「友情より愛情」の方が合ってんのか」
次からそれ使う!と朗らかに自身の語彙力が向上したことを喜ぶ上鳴を見て、切島が「その話、もっと早くにしておいてほしかった……」と打ちひしがれた。