第76章 役に立つから
ーーー今も大して職業自体は好きじゃない。ちゃんと頑張ってるプロヒーローもいれば、社会のゴミみたいなプロヒーローも、日本にだっているんだろうなと思ってる。
「………」
『……?』
爆豪はそんな彼女と洸汰の会話を思い出し、また身体をテーブルへとずるずるだらけさせていく向を眺めた。
警戒心を解かない子どものパーソナルスペースにうまく入り込んでいた彼女と自分の差を考え、爆豪が視線を逸らさないままに問いかける。
「……シンパシーってやつか」
『sympathy?』
向の流暢な発音に、爆豪が目を見開いた。
彼女は首をふるふると横に振ったあと、笑いながら否定した。
『そんなものであの年頃の子どもの警戒心は解けないよ』
「あ?」
向は、厨房に立つピクシーボブが打ち合わせを切り上げた担任二人に「あんた達も焦りなよ!!」と急かす言葉をかけるのを遠巻きに眺めて、ぼんやりとし始めた。
「ちなみに彼女いる?結婚の予定は?ちなみにだけどね!ちなみに!」
「あれ?ブラドって結婚してたっけ?」
「イレイザーは大丈夫よねまだ!えっ、大丈夫でしょ?」
「…大丈夫って何がです」
「結婚の予定は!?女っ気無いけど。ていうか、イレイザーは結婚とかそういうの興味なさそうよね…」
「…飲み会に来てるわけでもないんですから、話題は選んでください」
「「「イレイザーが飲み会来ることなんてないでしょ!」」」
「………」
プッシーキャッツの女子三人が声を揃えて相澤に反論を返す。
鬱陶しそうな顔を隠さない相澤に、「先輩命令よ答えなさい!今良い相手は!?」と血眼になったピクシーボブが彼の肩を掴み揺さぶった。
「…いいから、離してもらえますか。結婚しませんし」
「よーしまだ大丈夫!!」
『………。』
向が眉間にしわを寄せる。
「…あと二年は」
相澤がそう言葉を付け足す直前、「おい、無視してんじゃねぇよ」と爆豪が言葉を被せ、彼の声をかき消した。
なんだい、何か言いたいことがあるのかい、と向は某学級委員長の口調を真似て爆豪に問いかけ、彼が発した単語を耳にした。
「クマ」
『……熊?』