第75章 一文字異なる
後悔しないために、選んだのに。
どうしてこんなに思い出す。
彼女の声が、笑った顔が。
いくつもいくつも思い浮かんで、視界が歪む。
誰に言われたわけでもない、自分で決めた。
自分が選んだ。
自分が、彼女を選ばなかった。
そう考えて、ふと。
また一つ、彼女の言葉を思い出した。
ーーー友達を、選んだことはある?
そう言った彼女を、確かに自分は大切に思っている。
一人の異性として。
一人の女性として。
けれど、彼女はそれ以前に。
大切な友達の一人でもある。
(……あぁ、なんだよ、俺)
これだけ、考えて考えて。
ようやく友達と、彼女と。
どちらともずっと一緒に、うまくやっていける方法を見つけたと思ったのに。
友達
選んでるじゃん
「あっ、おい切島!補習始まるって、早く行こうぜ!廊下で何騒いでんの!?」
「……え?あ、そっか」
俺のノート類を持ってきてくれたらしい上鳴が、依然としてヒートアップしている爆豪の腕を引き剥がしてくれた。
呆然としていた俺は、上鳴に言われるまま爆豪に背を向けて。
(……あ)
いなくなれって考えた爆豪に。
酷いこと思ってごめんって謝ってない。
友達を選んだことあるか、なんて聞いてきた向に。
じゃあおまえは?って、聞き返すの忘れた。
(………まぁ、でも)
また明日。
そう考えて
俺はその場を後にした。