第76章 役に立つから
ーーー合宿三日目、AM6:00
(……まだ早ぇ)
定められている起床時間は午前7時。
予定より1時間早く目が覚めてしまった。
二度寝は家だろうが出先だろうがいつだってしない主義。
低く唸りながら布団から身体を起こし、ぼんやりと周りで雑魚寝しているクラスメート達を眺めた。
「ウェへ……ぱふぱふ…」
至極幸福そうな声が聞こえた。
その声のする方向へと視線をやると、いつのまにか布団に丸め込まれて縛り上げられた峰田の姿を発見した。
確か、彼は昨夜。
女子部屋へと押し入ろうと画策し、リュックにいそいそとピッキングセットを詰め込んでいた所を常闇に発見され、御用となってこのザマだ。
馬鹿すぎるにもほどがあんだろ、と呆れた直後、今度は聞き馴染みのある声がした。
「向さん…」
「………あ?」
寝言は寝て死ね、と呟いて、手元にあった枕を幼馴染の顔面へと投げつける。
しかし彼は幼稚園の頃から、一度寝たら何があっても起きない性質の持ち主。
顔面に枕を乗せたまま、すやすやと寝息を立て続ける彼を眺め、朝一番からイラっとした。
手近にあった布団をひっ掴み、彼に更なる寝苦しさを与えてやろうとそれを振りかぶった時。
「僕も、戦うから…」
そんな寝言の続きが聞こえてきた。
(何と戦うっつーんだ死ね)
ぼふ!と彼に丸めた布団を投げつけると。
今度は足下の方から声がした。
どいつもこいつも彼女の夢を見ているらしく、また聞き馴染みのある声が「向…」と呟いたのが聞こえた。
(テメェもか、勝手にあいつの夢見てんじゃねぇ!!)
遠くにあった枕を引き寄せ、振り返って彼の顔面に投げつけようとした爆豪の動きが止まった。
彼女の名前を呟いたのは、いつのまにか補習から戻ってきていたらしい一人の友人。
「…向…」
はっきりと彼女の名前を呼ぶ切島の目から、水滴がポロポロと流れていくのを、爆豪は無言で眺め続けて。
投げつけようとしていた枕を手放し、眉間にしわを寄せて呟いた。
「……バカが」