第75章 一文字異なる
やっぱり、向を諦めたくないとか。
じゃあ、また頑張って振り向かせてみようかなとか。
きっと爆豪が望んでいるのはそんな俺の素直な反応なんだろうけど。
「……おまえ、意外と良い奴かよ」
「あァ!?たりめェだろうが!!!」
「いや、意外過ぎだって。当たり前ではねぇよ」
そんなこと、残念ながら思えなかった。
その代わり、俺の頭の中は。
(……そっか……俺…)
こんな、良い奴に。
いなくなれとか思ったんだなって。
そればっかりで。
(……やっぱり)
やっぱり、こいつと友達でいたいなって。
そんな馬鹿のひとつ覚えみたいな、短絡的な思考に笑いがこみ上げてきて、ブハッと噴き出した俺の顔面に、爆豪の拳が叩き込まれた。
「笑ってんじゃねぇよブン殴られてぇのか」
「ざけんな、殴ってんじゃねぇか!!」
「るっせぇ黙れ死ねクソモブが」
「冷静に考えてみりゃ俺が悩んでた一言なんててめェが毎日俺にぶつけてくる暴言よりだいぶマシじゃねぇか!!!俺のセンチメンタルな時間を返して欲しいけどでも良心が許さねぇからテメェはいいから応援されてろ!」
「応援してんじゃねェ!!」
「いいんだよ!俺は!おまえみたいな才能マンでもあるまいし、選ぶのは片方だけでいいの!」
眉間にしわを寄せ、俺の言葉に耳を傾けている爆豪にそう言った時。
ーーーおはよ、鋭児郎
そんな彼女の声が聞こえた気がした。
「……少し、いいなって…思ってたくらいだし」
ーーー映画すごく面白かったね
「……友達のままいられれば…それで…」
ーーーまた、観に来ようね
(………なんで?)