第75章 一文字異なる
『えぇ……ケジメの為に告白って、流れで巻き込まれた私はどうしたらいいの』
つい、数分前。
事の経緯を知った向は、俺に呆れた顔でそう言った。
「悪い!なんの説明もせず」
『……友達のこと悪く思ったからって、ケジメとかつけなきゃダメなの?というか、振ってくれって言われてとりあえず振ったはいいものの未だによくわかってないんだけど』
「ケジメ、つけなきゃいけねぇと思ったんだよ。だって最低じゃん、嫉妬したぐらいでそんな風に思うって。らしくねぇし、良い気持ちもしねぇ。無理なんだよ、俺には恋愛も学業も友達も大事にとか。そこまで器用じゃねぇし」
夏休みが始まってすぐ。
爆豪に、最低なことをした。
いなくなればいいのに、なんて。
最低なことを考えた。
だから
自分の気持ちに、ケジメをつけようと思った。
爆豪への劣等感と、蓋をしたところで溢れ出してきてしまう彼への醜い嫉妬心に。
本当は、爆豪とも向ともうまくやっていけるに越したことはない。
けど、自分には無理だと分かってしまった。
向と一緒にいる爆豪に嫉妬せずにはいられないし。
いつか、本当に。
友達である彼を大切に思っている自分さえ、見失ってしまうような気がした。
「…俺は「友達」を選びたい。男はみんな、友達より彼女を選ぶもんなんだって上鳴が言ってたけどさ。でも、俺は……どっちか選ばなきゃいけないなら、選びたいんだよ」
ーーー爆豪、いなくなればいいのに
ほんの、一瞬。
一度だけだ。
今まで、誓ってそんな風に思ったことはない。
これからずっと過ごしていく中で。
色んなことを知って、たまに喧嘩もして。
バカみたいなこと言ったら、容赦なく「バカが」って罵られる、そんな毎日が続くと思ってた。
ずっと四人で、仲良しでいたいと思ってた。
嘘じゃない。
でも、確かにあの夏の日、当たり前のように考えていた価値観が揺らいだ。
友達を大切に思えなくなった。
邪魔に思って、煩わしいと感じて。
それはまるで、爆豪を裏切ってしまったかのようで。
俺、最低だな、なんて自覚した。
自覚したところで、もう取り戻せない大事なものを手放してしまった気がした。