第75章 一文字異なる
「………は?おいおい切島、なんでそんな早まるんだよ!」
昨日の夜。
向に告る、なんて宣言をしてきた切島を、上鳴は大慌てで引き止めてきた。
嫉妬の塊のような爆豪はというと、「は?」という初めの一声を漏らした以外に大した反応も見せてはこなかった。
(……なんだよ)
焦るフリくらいしろよ、なんて。
そんな友人の態度にまたイラついた。
「爆豪は?俺が向に告ったら」
「あ?」
どうすんの、と問いかけると。
彼は舌打ちを返し。
「知るかバカ、関係ねぇよ」
「相手になんねーって意味か」
「どうでもいいっつってんだろ、くだらねぇことベラベラといつまでも言ってんなよ!!」
クソが!!といつものようにブチ切れる爆豪が。
あまりにも彼「らしく」。
(あぁ、やっぱり)
そう、思った。
(……やっぱ、そうだよな)
誰かに惚れた腫れたぐらいで。
心が狭く、自分らしくいられなくなっていくのは、ひどく余裕がない自分だけ。
ただでさえ「硬化」なんて名前負けのする没個性を。
無理やり叩きあげ、ここまで来たのに。
ふとした瞬間に、捨ててきたはずの弱い自分が胸の内から顔を出す。
自分自身が嫌になる。
うんざりして仕方ない。
自分が嫌いで仕方ない。
期末試験。
まさか落ちると思ってなかった。
だからひどく焦って。
元から無かった自分への自信を、もっと無くして。
気づけば、いつからか。
(……爆豪、いなくなればいいのに)
尊敬すらしていたはずの友達を。
疎ましく思うようになった。
そんなことを、一瞬でも考えた自分が恥ずかしい。
プールなんて興味ないと言う彼を、自分が連れ出してきたくせに。
彼はいつも通り過ごしていただけで、何も変わってなんかいない。
変わったのは自分だ。
彼を見る、自分の目が変わっただけのこと。
(………あぁ、嫌だな)
俺、最低だな