第75章 一文字異なる
ずっと、おまえのこと。
「おまえ、のこと……」
『……?』
ずっと。ずっと。
「…ずっと…前から」
『………うん』
なんか、いいなって
結構、好きだなって
すごく
すごく
大好きだなって思ってて
「……。」
『…鋭児郎?』
急に、ハッとして。
言葉を途切れ途切れでも発していた切島は口を噤んだ。
向はそんな彼を見つめて、同じように黙ったあと。
困ったように笑った。
『どした、すごく言いづらそうだね』
「………。」
俯く切島を見て。
向は空を見上げて、彼に話しかけた。
『私も鋭児郎に聞きたいことある』
「……え?おぉ、どうしたよ」
『あのさ、友達を選んだことはある?』
「……なんだそれ」
タイムリーかよ、と切島は眉間にしわを寄せて呟いた後、不思議そうに向の方を見た。
「…選びそうになって絶賛後悔中ですけど?」
『マジか。鋭児郎でも友達選ぶことあるの』
「俺でもってどういう意味だよ。そんな聖人でも人間出来てるわけでもないって」
『そうかな』
「そうだよ」
『……そっか』
「…選ぶっていうか。俺の場合、ちょっと距離置こうかなとかそんくらい」
『…なんで?』
「…なんでって。…そいつといると最近すげーイライラすること多いし、騒がしいし、乱暴だし。いいことなさそう」
『…選びそうになってって、結局遠ざけるのやめたってこと?なんで』
「………漢らしくねぇじゃん。別に、イラついてんのそいつのせいじゃないし、騒がしいのはお互い様だし。乱暴な奴なんてどこにでもいるし。…そいつのこと別に嫌いじゃないし」
『…そっか』
「……でもさ。考えちまった時点でダメだよな」
ケジメ、つけねぇと。
そう呟いて、切島は俯き。
何かを思いつめたような顔をして、ベンチから立ち上がり、向の方を向いた。
『少し考えちゃうくらいのことは仕方ないのでは』
「向」
『…ん?』
「俺さ」
「俺、おまえが好きなんだ」