第75章 一文字異なる
カレーを食べて、各自部屋に戻った後。
彼と待ち合わせて、もう一度みんなで夕食を食べた屋外のテーブルへと向かった。
「おー、向!」
『…おー』
いつも通り。
先に一つのベンチに腰掛けて待っていたらしい切島がパッと笑い、向に軽く手をあげる。
向は切島の隣に並ぶと、ストンっと飛び乗るようにベンチに腰掛けた。
「ちょっと肌寒いな。大丈夫か?」
『うん、大丈夫』
寒くなったら上着貸すから言えよ!
と心配してくれる彼に向は微笑み、ありがとう、と返事を返した。
どこの部屋からか、二人が背を向ける施設の方から、生徒たちが楽しそうに騒いでいる声が聞こえる。
『話って?』
「…あー、うん。…あのさ」
単刀直入に聞いてきた彼女に、切島が狼狽えたように視線を逸らした。
心なしか緊張している彼を見つめて。
向が小さく口を開けたまま、彼を観察し始めた。
直後、風が強く吹いて。
向が乱れた髪を耳にかけ、流し目で切島に視線を戻した。
その一瞬。
彼女と切島の目が合った。
なんだか言いにくそうにしている彼に、向は微笑んで首をかしげる。
その仕草を見て、数秒と視線を合わせていられず、切島は彼女とは反対の方へとまた顔を背け、少しだけ俯いた。
「…えっと…」
『うん』
「………すまん、ちょっと待って。考えてる今」
『……考えてる?』
「なんて言えばいいか」
『…ん?言いたいことあったんじゃないの』
「いや、あるけど。タイミングとか色々あるじゃん」
『………このタイミングで話したいから呼んだんじゃないの?』
「そうだけど!ちょ、黙って」
『……………。』
律儀に、無言を貫く向を視界から外し。
切島は大きく深呼吸した。
けれど一向に動悸はおさまるどころか速さを増し、運動したわけでもないのに、一気に喉が渇いていく。
(…落ち着け、自分で決めたんだろ…!向に告るって…!)
だって、そうしなければ。
ますます、自分は。
「あのさ!!」
『…うん』
「……っ俺…」