第75章 一文字異なる
『男女の前に友達だから』
「……………」
『だから会ってたって変じゃない』
「……ふーん」
そんな言葉を口にした彼女に。
「じゃあ、なんで?」
『……何が?』
切島は、笑みを浮かべたまま。
自分の慣れない手つきのせいで無残に傷をつけられていく、不恰好なジャガイモを眺めて。
聞かずにいられなかった。
「なんで、夏休み。爆豪と二人で遊んでやらねえの?」
視界の端で、動いていた彼女の手が止まった。
切島は向から目を背けるように、ただまっすぐに視線を落とす。
「…料理すんのなんて、いつぶりだっけ」
そんな独り言を呟いて、切島は彼女の答えを待っていたものの、沈黙に耐えきれず。
もう一度言葉を変えて問いかけることにした。
「男女の前に友達ならさ。遊んでやればいいじゃん」
『少し会って話すのと、二人だけで遊ぶのは違うよ』
「友達なのに?」
『友達だから』
「ふーん」
ならさ、と切島はまた笑って言葉を続け、提案してきた。
「俺も話あるから、補習の前に少しいいか?」
『え?…うん、いいよ』
(何、オッケーしてんだ……!)
爆豪は全ての食材を切り終え、もはや用無しとなった包丁をまな板に突き刺した。
クソがぁ!と唐突にブチ切れた爆豪。
彼の横を通り過ぎようとしていた麗日が、ビクッと震えた。
「おいコラ、俺とそいつの話はまだ終わってねぇんだよ!!邪魔すんな!!!」
「え?いや、そこまで把握してねぇって。向、約束してたのか?」
『いや、今日はしてないしもうあの話は終わり』
「勝手に終わらせてんじゃねぇよ!俺は認めてねェ!!」
『いや勝己の許可いらんし。そういうんとちがうし』
「麗日真似てんじゃねぇ、クソ可愛いだろうが!!!」
『…クソ可愛い?』
「嘘だバァァアカ」
『お茶子は誰が見たって可愛いから照れる必要ないよ』、とフォローした向に、「頭ん中に除草剤撒かれて死ね」と爆豪が辛辣な言葉を真顔で返す。
手が止まっていた向の肘を、軽く切島がコツ、と小突いてきた。
「飯、早く作ろうぜ」
『あぁ、ごめん』
「……ッ!」
クソモブ野郎が!!
という背後からの爆豪の暴言に、切島が取り合う事なく背を向ける。
そんな切島の横顔を見上げ。
向は、視線を手元に落とした。