第75章 一文字異なる
地べたにスライディング土下座した女ヒーローたちを切島が遠目に眺めて、ふと。
視線を手元に戻そうとした時、切島の隣に立ち、一定のリズムで食材を切り続けている向の手元が気になった。
「料理すんの?普段」
切島が笑って問いかけてきた。
向は手を止めることなく、『いつも作ってるよ』とだけ言葉を返した。
「意外と家庭的なんだな」
『意外とって何だこらぁ』
「あー、真似すんならもっと全力でやんねぇとな」
『やんのかこら、クソ髪ヤロー』
「なんかおまえが言うと気ィ抜けんな…棒読みだし」
やってみて。
という向のリクエストに、切島が深く息を吸い込んで、カッと目を見開いた。
「指図してんじゃねぇぞクソ深晴!!」
『あはは、ちょっと似てる。あと名前呼び新鮮』
「いや、結構似てたじゃん!自信あったんだけどなー」
『まだ迷いが見える』
「…迷い?」
『女子にこんなこと言っていいのかな、って本物の切島鋭児郎がちょっと顔だしてた』
「あぁ、そこはどうやったって隠すの無理だな」
女子に使う言葉じゃねーもん。
そう言って、切島はピーラーでジャガイモの皮を一心に剝き続けていく。
くぁぁ、と切島のあくびに向がつられてあくびをした背後。
後ろのテーブルで、別の炊事グループが下準備を開始し始めた。
ズドドドドという料理とは思えない連打音が聞こえ、驚いた向と切島が同時に背後を振り向くと。
そこにはものすごい勢いで人参を切り刻んでいく爆豪の姿があった。
彼は片手間にいくつもの具材を切り刻み、向と並んで下準備をしている切島を瞬きすらなく睨みつけることに忙しそうだ。
「「……………」」
『なんかすごい見てくるんだけど、鋭児郎何したの』
「なんもしてねえよ。…向は?昨日、なんかあったんじゃねえの」
『なにも』
「ははっ、なにもって。何もないのに、合宿の夜、男女が待ち合わせなんかするかって」