第74章 いつもと違う
「諸君、お楽しみのところ悪いが」
「「「「!!!?」」」」
騒ぎ過ぎだ、とっとと寝ろ…!
完全にブチ切れている担任の登場により、大部屋にいた生徒たちは一目散に後片付けをし始めた。
向が個性を解除したのか、轟は一瞬で騒々しい喧騒に引き戻される。
(……うるせぇ…)
やけに静かな世界にいたせいだろう。
こんなに騒々しかったのかと思ってしまうほど、轟の耳には周りの音が不快に聞こえる。
『じゃあまた明日、焦凍』
「…あぁ」
おやすみ。
そう何気なく、再度言葉にした彼女に対し。
轟は一瞬、言葉を返せずに。
「………おやすみ」
彼女にとっては何の他意もない、そんな挨拶でさえ。
ほんの少しの非日常感に心が躍った。
微かに口角を上げていた轟の顔面に、相澤が立ち去ったのを確認した爆豪が枕を命中させ、堰を切ったように怒鳴り散らした。
「何一人だけ幸せ噛み締めてやがんだ!!!こっちはテメェのせいで、合宿初日から肥溜めに落ちたような最低な気分だわ!!!」
「悪い」
「これだからイケメンは…!!轟よォイケてるメンズだからって見せつけていいもんと悪いもんがあるだろーよォ!!」
「そうか、悪い」
「轟くん!今はクラスでのレクリエーションの時間だったんだぞ、私情はさておき全力で遊んで然るべきだ!!!」
「悪い」
「おまえなんで布団深晴とシェアしてんの!?意味わかんないんですけどなんでそんなことサラッと出来るのナチュラルボーン女たらしか!!あっ、ちなみにその布団は俺が使うから!!おまえにはやらないから!!」
「……」
轟は上鳴の言葉を聞き、きゅ、と布団をしっかり掴んで離さない。
爆豪、峰田、飯田、上鳴の非難が殺到していても絶対に悪いと思っていなさそうな轟と、彼と戦争を始めてしまいそうな爆豪を見るにみかねて、「はいはい!みんな疲れてっからそろそろ、寝ようぜ!」と切島が号令をかけた。
(切島くん、こういう時頼りになるよな)
ブチ切れている爆豪をなだめつつ、彼を布団へと向かわせる切島を見て、緑谷がそんなことを考えた。
じゃあ電気消すぞ!という切島の声に、数名の男子が返事を返した後。
部屋の明かりを消すのと同時。
(……なんだよ、あれ)
切島は、無言で。
自身の顔からも笑みを消した。