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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第74章 いつもと違う




期末試験が終わってから。
どんな抵抗をしてみせようと、向は轟を遠ざけ続ける。
すねてみようが、不満をぶつけようが、向に同じ態度を返そうが。
彼女は変わらない。
ちなみに今朝の作戦は、「徹底的に無言を貫く」だったが、轟自身が耐えきれなくなって失敗に終わった。
しかし何もしないでいるわけにはいかず、無理のない範囲で作戦を続行しようと決めて、しばらくは「名前から苗字呼びに変える」こととした。
果たしてこの作戦に効果があるのか、いつまでこの作戦が続くのか。
轟自身、分かっていない。
けれど、轟から見る向は特に気にしてなさそうなのに対して、彼女を苗字で呼ぶ度、なんだか言いようのない悲しさが轟の中に募っているのは確かだ。


(…多分また俺がもたねぇな)


早くも作戦の失敗を予期した轟が、ふと向から視線を外し、クラスメート達の方へ視線をやると。
やたらめったら爆豪、切島、上鳴、飯田、峰田、八百万が全力で枕を轟めがけて投げ続けてきていることに気づいた。
向が透明な壁を作るようにベクトルを操作しているのか、二人の周りに壁と衝突した枕が積み上がっていく。


『焦凍集中砲火されてるけど仕返ししなくていいの?』
「……当たってねぇからいい」


(当たってたらやり返すんだな)、と向が納得し、何か怒鳴り散らしている爆豪に対して、『は?』と耳に手を当て、聞き返すジェスチャーをした。
安全な壁の内側で挑発行為を続けている向を横目で見て。
轟は、「もう大丈夫なのか」と彼女に問いかけた。


『何が?』
「…今日一日、様子変だったろ」


崖から落ちてから。
轟はそう言った後、くぁ、と大きくあくびをして、目に涙を溜めた。


「怖かったのか」
『…うん』
「肝試しも怖いっつってたな。大丈夫か」
『はは、大丈夫』
「…そうか。…この、周りの音を消す個性の応用」


相澤先生が、よく眠れるようにか。
透明な壁の向こうから変顔を見せつけて、ムードをぶち壊してやろうという姑息な手を使ってくる上鳴と峰田の渾身の変顔を真顔で眺めつつ、轟は問いかけてきた。
向はその言葉を聞き、少しだけ考えた後。


『…いや、自分のためだよ』


と、半分本当で、半分嘘で出来た言葉を吐いた。


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