第73章 君の原点
ーーーおまえのあいつへの気持ちがただの所有欲程度なら、俺の邪魔はしないでほしい
いつか。
轟がそんな言葉で釘を刺してきた。
所有欲程度と俺の気持ちを推し量って。
所有欲の何が悪い?
自分も執着してるくせして笑わせんじゃねぇ。
好きな女を俺のもんにしたい、どいつもこいつもただそれだけの事を恋だの愛だの綺麗事に言い換えてるだけだろうが。
(……ふざけてんじゃねぇぞ…!)
俺だって。
所有欲だろうがなんだろうが深晴を手に入れたい。
こんな数分、抱きしめただけじゃ到底足りない。
もっと近づいて。
もっと暴いて。
もっと独占したい。
もっと触れていたい。
なのに、なんで手に入らない?
そう思い、ふと。
自分の手を見て思い至った。
彼女の怯えた顔がフラッシュバックして。
ストンと、胸につっかえていた何かが腑に落ちた。
(……あぁ、そういうことかよ)
確か、言ってた筈だ。
あいつの男の好みは。
包容力があって、理性的。
一々声を荒げたり、キレたりしない。
俺には何も当てはまってない。
そりゃ、なびくはずもない。
けど、「これ」も確かに。
あいつに見向きもされない理由の一つ。
「…っざけんな…」
自分の個性は。
人より優れていてかっこよくて。
派手で、ヒーローに向いている。
誰にも負けない。
誰にも劣らない。
だから、自慢の個性だ。
No.1ヒーローを目指すにはおあつらえ向きの、最高の個性。
けれど
初めて惚れた女にとっては
最低最悪なトラウマの象徴
愛されるわけがない
爆豪は誰もいない廊下で一人。
自嘲した笑みを浮かべ、力一杯拳を振り上げて。
「クソみてぇな個性だな」
そうはっきりと呟いた後。
力なく、その場に立ち尽くした。