第74章 いつもと違う
「あっ!深晴ちゃん来た来た!」
「あれ?上鳴迎えに行かなかった?」
『ダッシュで逃げてきたから置いてきた』
「なんで!?可哀想!」
芦戸と切島の提案により、男子が借りている大部屋へと集められた1-Aの生徒たち。
「あとは爆豪と上鳴だけか!」と切島が発言したように、同じクラスでこの場にいないのはその二人だけらしい。
「向さん、かっちゃんと一緒だったの?」
『うん、そうだよ』
「そ、そっか。何かあった?」
『何か…?何も』
何もない。
もう一度向がそう言い直し、にっこりと笑ってみせた。
その笑顔を直視できず、一瞬視線を逸らした緑谷の視界に、荒ぶる耳郎の手によって峰田が布団で巻かれて昆布締めのように縛られている姿が視界に映った。
「助けてくれェエ緑谷ァア!!」
「…ごめん、自業自得だよ…」
「てめぇそれでもヒーロー科かよ、このろくでなしぃい!!」
「ろくでなしは緑谷じゃなくておまえだ!!」
ブスッ!とイヤホンジャックで人為的な頭痛を引き起こされながらも、峰田がゴロゴロと転がって逃亡を始める。
騒々しい大部屋の片隅、人がいない方へと進んで座りに行った向を眺めた後、緑谷が辺りをキョロキョロと見渡した。
(…かっちゃんは…まだ来てない)
よし、今だ!
緑谷が一歩踏み出そうとした矢先、「どけクソデク俺の視界に入ってきてんじゃねぇぞ!!!」と期末試験ぶり、最高潮にイラついているらしい爆豪が怒声を浴びせてきた。
(あぁ…今日もダメか…)
自分が我を通すと、周りの人間にも危害が及ぶのを十分理解しているため、緑谷は大人しくその場に座ってこれから始まるクラス総出のゲームに興じる事にした。
いつの間にやら戻ってきていた上鳴が「ウェーイ、始めよー!」と楽しげな声を上げ、両手をブンブンと振り回す。
「向」
『……え?』
懐かしい呼び方で声をかけてきた轟。
向のもとへと近づいてくる彼の姿を、遠目から視界に捉えて身体を硬くしていた向は、一瞬気の抜けた顔になった。
「…隣、いいか」
『………。』
どうぞ、とぎこちなく返事を返した向の声に、テンションMaxの芦戸の声が被せられる。
「じゃあまず第1戦目!!枕投げします!!」
「えっ!?人狼は!?」