第73章 君の原点
「なんで俺に話した」
彼女が言っていることは、おかしい。
切羽詰まっていなければ、誰にも話さないというのなら。
自分にそんな話をする必要はない。
あんな腕の拘束、彼女であれば自白する前に個性を使って逃げ果せた。
爆破の個性が怖くて逃げられなかった?
だったらそもそもこの場に来ない。
「…おい、誤魔化したらブッ殺すっつったよなぁ…?」
『誤魔化してないよ。全部本当の話』
「ならなんでだ、言え!!」
『……なんで?…なんでかなぁ』
向は階段の方へと歩いていた足を止め、爆豪に背を向けたまま答えを返した。
『……勝己には、答えなきゃいけない気がして』
(……なんだそれ)
いつも、いつも。
つれない返事を返すくせに。
向はよくわからない部分で爆豪を特別扱いした後、振り返って。
遠い目をして笑った。
その妙な雰囲気に、爆豪がもう一度彼女を引き寄せようとした時。
曲がり角から飛び込んできた上鳴が「あっ、いた!!」と大声を発した。
「どこ行ったかと思ったマジ焦った…」
『…走ってきたの?どうかした?』
「いやそんな必死になって探してたわけじゃ……あっ、男子部屋で集まって、これから人狼やるんだってよ!補習組も今日だけは遊べるし、いこーぜ!」
『え、眠くないのみんな。あれだけ昼間から動き回ってたのに』
上鳴が来たのをこれ幸いと、向がダッと階段を駆け上がっていく。
おい待てコラ!!と爆豪がせっかく教えに来てくれた上鳴を置いて駆け出した。
「あぁちょい待ち!!」
「あァ!?んだ邪魔すんな!!」
「告白、結局どうなった?」
「………あ?」
「へ?違うの?」
「何すっとぼけたこと抜かしてやがんだ、告白云々言ってたのは切島だろが」
「いや先に深晴呼び出したのおまえじゃん!完全に切島勘違いしてるけど!?早まっちゃってますけど!?」
「知るかほっとけ」
「ピンポイントで似たような発言!そういうとこだけ以心伝心か!!」
玉砕覚悟の切島止めないと、とまた忙しなく駆け出した上鳴。
そんな彼を見送った爆豪は、ぼそりと一言呟いた。
「………告白だァ…?」