第73章 君の原点
誰が知ってる。
そう問いかけてきた爆豪に、向は眉間にしわを寄せて答えた。
『…オールマイト』
「……………は?」
なんで、ここで彼の名前が出てくる。
担任や、彼女が預かってもらっているという親戚、やたら彼女に好意を向けている轟や、彼女に贔屓されているように見える緑谷ならわからなくもない。
しかし黙って言葉の先を待っていようと、彼女はその他の人名をあげることはしない。
呆けた顔をした爆豪を睨み続けていた向が、不服さを前面に押し出して言葉を発した。
『ねぇ、放して。こんなところ見られたら問いただされる』
「…おい待てコラ、なんでオールマイトが出てくる?むしろなんで他の奴らには黙ってやがる」
『悲劇のヒロインぶってんじゃねぇって言ったのは誰だっけ?そんな話、切羽詰まってなきゃ誰にもしないでしょう』
「…じゃあテメェは今、何に切羽詰まってんだよ」
『………。』
向は口をつぐんで、ブンブンと打ち上げられた魚のように上半身を左右に揺らして暴れ始めた。
腕に負荷をかけて、逃げようとしてくる彼女を力任せに押さえ込むと、バンッ!という破裂音とともに彼女が個性を使い、爆豪の腕の力のベクトルを操作した。
堅牢な爆豪の腕の捕縛を外し、それ以上は彼の身体へ衝撃を加えることなく。
向だけが突き飛ばされるように宙に投げ出された後、彼女は宙で回転し、震えの止まっている足で力強く着地した。
『勝己が他人のことを気にするなんて珍しいね。何かあった?』
「あ?」
彼女を抱きしめていたなんて事実を忘れさせるかのように、ごく自然に話しかけてくる向。
爆豪はいつも通りに『ははは』と意味なく笑う彼女の様子を見て、少しイラついた後。
正直、ホッとした。
(……んな話聞かされて)
慰めてやるべきなのか。
それとも、今まで通り扱ってやるべきなのか。
正解がわからない。
『ねぇ、上に戻って勝己も遊ぼうよ』
(……なんでこんな)
平然と。
飄々と。
彼女が笑っているのか、わからない。
「……おい」
『ん?』