第73章 君の原点
「悲劇のヒロインぶってんじゃねぇぞ、テメェにはそんな役柄似合わねえわ」
『…えげつな…震えてる女の子にヒーロー志望がそんなこと言っていいの?』
「震えてんじゃねえブッ殺すぞ」
『なるほど、ヴィラン志望か』
黙れや、とまた暴言を吐いた彼は向の左肩を引き寄せて、腰を捻らせた向を正面から抱きしめた。
片腕を彼女の腰に、片手を彼女の後頭部に当てた爆豪は、欲求のままに彼女を抱きしめて。
まるで抱き枕を押さえつけるかのように向の身体に力を込める。
『いだだだだいたいいたい力が強い放して、もう大丈夫だから怖がらないから』
「………」
(やっぱ怖がってたんか殺す)
尚更締め付けが強くなった爆豪の腕力に向が呻いた。
『怖くない、怖くないよごめん』
「あ?死ね」
『本当に腰が召されるから』
「何で震えてやがった、答えろ」
『いだだだだこれ拷問だよねもはや、全然萌えるシチュエーションじゃない…!!』
キミの、個性が。
向がそう言葉を漏らしたのを聞いて、爆豪は少しだけ彼女をきつく締め付ける腕の力を緩めた。
「…個性が?」
『…個性が…爆破だから…その、タイミングによってはびっくりする』
「いつも何ともねぇだろうが、誤魔化してんじゃねぇよ」
『いたたた誤魔化してない、本当だって。今日は本当にタイミングが悪くて…!』
嘘教えたらブッ殺す。
腕の捕縛から彼女を逃さず、爆豪が脅迫に似た言葉を向へぶつける。
向は困った顔をした後、視線を逸らして話し始めた。
『どこまで聞いてたの、洸汰との話』
「んなことどうだっていいんだよ、とっとと話せ」
『……どうだってよくはないけど。……小さい頃、家族で』
家族で、小型飛行機に乗っていた。
父と、母と、自分、三人で。
空中でヴィランと遭遇し、飛行機は大破。
高い高い上空から真っ逆さまに、下に広がっていた海に落下して。
父は命を落とし、母は。
『それ以来、私が見えなくなった』
「………。」
『今日個性が使えなかったのは、計算できなくて。その時のことを思い出したから』
「…そん時の爆破音を思い出したってのか」
『そうだね。その時のことだけじゃないけど』