第73章 君の原点
一層震えが増した彼女の姿を見て、爆豪がポカンと口を開け、硬直した。
『あ…ごめん、ちょっと…今日はあまり、楽しく話せないかもしれない』
「………。」
爆豪の手を振り払い、自分の身体を押さえ込むようにぎゅっと自分の腕を抱え込んで小さくうずくまる向を見て。
いつも怒鳴り散らされようが脅されようが恐れず突っかかってきていた彼女が、確かに、爆豪の存在に怯えているということが理解できた。
「………おい」
『あぁ、ごめん…明日には直ってるから。また明日話そう』
「………」
また、明日。
つまり、もう今日は一緒に居たくない。
そう彼女が伝えようとしていることが理解できた。
理由の分からない、向からの拒絶。
爆豪はまたそんな彼女の態度に焦燥感を煽られ、イラついて、口から出ていきそうになった暴言の数々をなんとか飲み込んだ。
「……っ」
自分が起こした手のひらの上での小さな爆発が、彼女の中で張り詰めていた何かを溢れさせてしまったのだと気づいたからだ。
悪気はない。
いつも通りに接していただけ。
けれど、彼女はいつも通りの彼女ではない。
そのことに気づいていながら、構わず普段通り雑に接した自分に落ち度がある。
けれど「悪い」、なんて短い謝罪の言葉すら爆豪は何年も口にしてこなかったせいで、咄嗟にどうしていいかわからず。
彼は縮こまって震え続ける彼女を、ただ抱きしめた。
『………!』
「……。」
言葉なく。
静かに、力強く抱きしめてくる彼の身体は温かい。
向の震えを押さえ込むように力が込められた腕の強さに、俯いていた彼女は一瞬、爆豪へと視線を移した。
「……そのまま」
こっち見てろ。
爆豪が耳元でそう呟いた。
彼の腕の力が尚更増し、恐怖を表情に滲ませていた向は、ようやく至近距離で見つめてくる爆豪と視線を合わせた。
怯えてんじゃねぇよ、と不機嫌そうに爆豪は言葉を続け、向の額に自分の額をゴツ、とぶつけてきた。
本日二度目となる彼からの頭突きに向は『ゔっ』と悶絶し、目に涙を溜めた。
どうやら、今回は頭突きしようと思ったわけではなく、額を合わせるつもりだったらしい爆豪が、痛みにいつも通りの眼光を取り戻し、恨めしげに彼を睨みつけてくる彼女を見て、ハッと鼻で笑った。