• テキストサイズ

風向きが変わったら【ヒロアカ】

第72章 見て見ぬフリ




ほんの数秒間の沈黙の後。
八百万の声が男女どちらもの大浴場に響いた。


「シチュエーションですわ!」
「おぉそっか!」
『ねぇねぇ、トランプ何のゲームする?』
「あっ、この人数だったら大富豪は少し多いよね!」
「きゃー楽しみ、何しよっか!!」
「男子も誘ってみる!?21人で人狼とかしたら絶対楽しいよね!!」
「人狼やりたーい!」


(((えっ、向の恋バナは?)))


完全に「シチュエーション」とトランプの話を持ち出した向が場を受け流すことに成功したのを、男湯に浸かる男子陣がツッコミをいれてやりたい衝動に駆られる。


「まァまァ…飯とかはね…ぶっちゃけどうでもいいんスよ。求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺わかってるんスよオイラぁ…」


求められてんのは、この壁の向こうなんスよ…。
女子トークに話を咲かせる女湯の方角を見やり、仁王立ちしていた峰田が独り言を呟いた。


「一人で何言ってんの峰田くん…」
「いるんスよ…今日日男女の入浴時間ズラさないなんて、事故…そう、もうこれは事故なんスよ…」
「峰田くんやめたまえ!君のしている事は己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」


目をひん剥いて壁にぴったりとくっついていた峰田は飯田の制止も聞かず、カッと目を見開いたかと思うと、目にも留まらぬ速さで壁を登り始めた。
授業では絶対に見たことのない忍者のような素早い峰田の動きに、飯田が彼を捕まえ損なう。


「壁とは、超える為にある!!Plus Ultra!!」
「速っ!!」
「校訓を穢すんじゃないよ!!」


壁を登り詰めようとした彼に向けて、スッと無言のまま轟が右手を向け、爆豪が左手で特大火力を放とうとする。


「おい峰田降りろって!!」
「そうだぞ、俺に代われ!!」


焦った切島が湯船から立ち上がり声を荒げ、上鳴が切島に上辺だけ賛同したような下心ダダ漏れのコメントをするのと同時。
隔たっていた壁の上から、ヌッと小さな人影が現れた。
壁の上へと登りつめようとしていた峰田の眼前。


「ヒーロー以前に、ヒトのあれこれから学び直せ」


完全に呆れ顔で姿を現した洸汰に手をパッと引き剥がされ、「このクソガキィイィ」と叫びながら、性欲の権化は真っ逆さまに落下していく。

/ 768ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp