第72章 見て見ぬフリ
「ねぇねぇ、深晴って結局爆豪と轟どっちが好きなの!?」
「あ、それめっちゃ気になる」
「ケロ、爆豪ちゃんと轟ちゃんじゃないんじゃない?」
「えっ、遂に飯田くんのターン!?」
「葉隠、あんたずっと飯田推してるよね。むしろあんたが行けばいいんじゃ」
大浴場。
全員でまとまって入浴しに来た女子グループの話題は事欠かない。
あっちへこっちへと話が飛び回り、現在は向の恋バナへと焦点が当てられていた。
冷や水を大量に浴びせられた向は肩までしっかりと湯船に浸かり、幸せそうににやけているのを麗日に「深晴ちゃん顔ゆるっゆる!」とツッコまれた。
『溶けそう』
現在の自分の幸福度をわかりにくい言葉で表現した向の周りに女子がバシャバシャと集まり、目を爛々と輝かせた芦戸が再度問いかけてくる。
「ねぇ、バスでいつもみたいに自由な席座らなかったのって、いつも通りなら轟が隣に来るからでしょ?」
「轟と喧嘩でもした?もしくは、完全に爆豪に決めたとか!!」
『溶ける』
「いや溶けないから、話そらすな!」
「あ、あの…深晴さん私も気になりますわ。てっきり実技試験でのお二人の親密度を見ていたら、轟さんといい感じなのかと」
『溶けちゃう』
「本当に強酸湯船に流すよ!?」
「いやそれは巻き添えが多過ぎるから!湯船から出てやって!」
『いや響香、さらっと私を明け渡さないでよ』
どっちに恋してんのねぇねぇ誰なの、と言及をやめない女子二人。
テンションが上がっている二人の声は、壁一枚隔てた男風呂に集まっている男子たちの耳に届いた。
男子たちが自然と談笑をやめ、早い段階で壁の方を眺めていた爆豪と轟と同じように、聞き耳をたてる。
『……えー……恋とかよくわからないから』
「嘘だね、あんな萌えシチュ思いつくくせにわからないとか絶対嘘!」
「モエシチュー?」
「お茶子ちゃん、シチューのことじゃないわ。シチュエーションの略よ」
「おぉ、そっか!萌えるシュチュエーション!」
『ねぇ、シュチュエーションが正しいの?シチュエーションが正しいの?』
「え、シュチュじゃない?」
「シチュでしょ?」
「言われるとわかんないね!私シチュエーション派!」
「どっちなの?ヤオモモ!」
「えっ?…ええと、少しお待ちを」