第71章 似た者同士
『プロヒーローなんて金でしか動かないもんだとずっとずっと思って生きてきた。私が子どもだったこともあってなんだろうけど…自分じゃどうしようもないことをアメリカのプロヒーロー達に助けてくれって言いに行った時…門前払いなんてもんじゃなかった。ヒーローの本場なんて言われてるくせに、アメリカのプロヒーロー達は腐敗し切ってるんだよ。まぁ、この歳になればさすがに全部のヒーローを見てきたような評価を下すのは早とちりだったなって思うけど…今も大して職業自体は好きじゃない。ちゃんと頑張ってるプロヒーローもいれば、社会のゴミみたいなプロヒーローも、日本にだっているんだろうなと思ってる。「嫌い」から、「好きじゃない」に変わったのはつい一年くらい前。日本に来て、日本のプロヒーロー達を知ってからだよ。金でしか動かない大人を、好きになれるわけがないよね』
向はベンチから足を下ろし、ゆっくりと立ち上がった。
ありがと、とお礼を口にして、着替えてこようと女子部屋に向かい始めた向を見て。
焦った洸汰が声を発し、向を引き止めた。
「…っ家族」
『…うん?』
「…壊されたって」
『あぁ、うん。理由があって親戚の人の家に預かって貰ってる』
「……!」
ハッとして、何かを口にしようとした洸汰の頭を、向が撫でようとして。
自分の手が濡れていることを思い出し、彼に触れるのを躊躇った。
『……。』
頭上に伸ばされた向の手を、驚いたような顔をして見上げてくる洸汰。
それでも手を振り払うことなく、その場に留まり続ける洸汰の様子を見て。
向はゆっくりと、彼の帽子に手を置いた。
『…洸汰。夏休みに、親戚の所に遊びに来てるってわけじゃなさそうな雰囲気だよね』
「……!」
『……キミのことは知らないし、聞いても教えてもらえないだろうけど……もしかしたら』
本当に、キミと似ているのは。
そう、言葉を途切れさせた向の手のひらを、大人しく頭に乗せたままの洸汰。
そんな二人の会話を盗み聞きして、様子を陰から眺めていた爆豪。
彼は初めて知る彼女の生い立ちに言葉を失い。
穏やかな空気が二人の間を満たしているのを見て、声をかけるタイミングすら、失ってしまっていた。