第71章 似た者同士
ーーーPM5:20
遠くの空でカラスが鳴く。
夕暮れ色に染まった草木をかき分けて、ようやく1-Aの生徒達は満身創痍で合宿所へと辿り着いた。
「やーっと来たにゃん。とりあえず、お昼は抜くまでもなかったねえ」
「何が三時間ですか…」
「腹へった…死ぬ」
「悪いね、私たちならって意味アレ」
実力差自慢の為か、と砂藤が呟いたのに対し、ピクシーボブが猫の手を口に当て、「ねこねこねこ!」と完全に狙っているとしか言いようがない笑い声を上げた。
『……ねこねこねこ……』
「…む?どうした、向くん」
『……いや……』
至極、良くない。
真顔のまま、何かに対しての不満を言葉にした向に、飯田が「何が良くないんだ?」と問いかけた。
その直後、ビシッとピクシーボブが向を指差し、私語を諌めるかと思いきや。
「いいよー君ら…特にそこの5人」
一番初めに魔獣へと飛びかかっていった、緑谷、飯田、爆豪、轟、向を評価した。
「三年後が楽しみ!!ツバつけとこーー!!!」
「うわっ」
「なんだ」
プップッ!!と物理的に唾を飛ばしてくる15歳歳上の女性の姿に、指を指された4人の男子生徒たちは驚愕の表情を浮かべ、自身の顔を飛沫から守ろうとガードする。
「マンダレイ…あの人あんなでしたっけ」
「彼女焦ってるの、適齢期的なアレで」
(………?)
生徒達に話しかけていたのはピクシーボブだというのに、マンダレイと話していた相澤をジッと見つめてくる向と目が合った。
(………なんだ?)
ほんの少しだけ、相澤が首を傾げてみせるが。
向は爆豪に肩を叩かれ、スッと相澤から視線を外して振り返った。
『なんだい命の恩人よ』
「あとで付き合え」
『トレーニング?え、するの今日…もう目眩ひどいんですけど』
「ちげぇわ」
話がある。
そう言った爆豪に、隣に立っていた切島の目がカッと見開かれた直後。
ごく自然に「適齢期と言えば」なんて三十路を越した乙女の地雷を悪気なく踏み抜いた緑谷が、自身の顔面に猫パンチを飛ばしてくるピクシーボブに質問を投げかけた。
「その子はどなたかのお子さんですか?」