第8章 キミに近づきたい
「ハイ、オールマイト先生」
挙手をした八百万が、オールマイト顔負けの講評を爆豪、緑谷、麗日、飯田の順に述べた後、向を見つめて、なぜか少し恥ずかしそうに言葉を繋げた。
「深晴さんはその…麗日さん対策ということもあり、身を切る思いで自分の攻撃手段になり得る周辺の物を撤去するという策を選んだのでしょう。終盤、瓦礫の落下がなければ向さんは武力無しに麗日さんとの戦闘に勝利していたでしょうし」
「どうした八百万!?やけに向にだけ甘くねぇか」
「そ、そんなことはありません!」
『褒めてくれてるのにごめん、普通に何も考えずに周辺の物を窓から捨てたよ』
八百万と向の目が合う。
八百万は数秒間硬直した後、ピッと人差し指を顔の横で立てて、「あぁ思い出した!」という顔をした。
「モニターだけでもわかりましたが、敵に成り切ろうというその心意気!深晴さんは、敵の真似ならお手のものですわね!」
「「「いや絶対向にだけ甘いだろ!?」」」
「そんなことはありませんってば!」
『おぉ…フォローありがとう』
「ま…まぁ飯田少年もまだ固すぎる節はあったりするわけだが…まぁ…正解だよ、くう…!」
半壊したビルから場所を変えて、二組目、三組目の戦闘訓練が始まった。
別の組の訓練を見れば見るほど、一人、壁際に立って、モニターを見上げる爆豪の顔から生気が抜けていく。
二組目が始まった時から、ずっと爆豪の隣に立ってモニターを見上げていた向は、その様子に気づいてはいたが、声をかけることはしなかった。
「おっ、爆豪、向見たか!?俺と瀬呂のチーム、なかなかだったろ!?」
そんな彼に恐らく気づいているのだろう、訓練が終わった直後、汗を拭いながら切島が駆け寄ってきた。
うん、頑張ってたねと返事を返そうとした時、爆豪が鉛のように重い声色で切島を牽制した。
「こっち来んなクソ髪」
「えっ、なんだよ心配してやってんのに!」
「っるせぇうせろや黙れ」
「…あーはいはい、わかったよ!」
向、任せた!と切島は向の肩を叩いて、集団の中に戻っていく。
向はなぜかまたイラッとした爆豪の雰囲気を横に感じつつ、気づかないふりをした。