第8章 キミに近づきたい
「ヒーローチーム…WIIIIIN!!!」
建物に響いたオールマイトのアナウンス。
向は、タイムアップ直前、一瞬だけ麗日の進路を妨害する姿勢を見せて、すぐにその道を譲った。
高速移動で飯田の頭上に現れた彼女は、ノーモーションで、落下してきた瓦礫が自身の身体に触れる直前、個性を使って瓦礫を真横の壁に叩きつけた。
「…っな…どうしてだ向くん!なぜ俺の頭上に!?」
『…なぜ?天哉が怪我しちゃうから』
痛いの、嫌でしょ?
向は笑って、付け足した。
『…負けちゃったね』
「向くん…!」
ジーーーン、と感動する飯田の足下で、飛びついたロケットからずり落ちてきた麗日が、胃の内容物を余すところなく披露した。
昼ごはんもんじゃ食べたの?と聞いてくる向に背をさすられながら、麗日は律儀に「今日はたこザンギ定食…」と答える。
たこザンギだったはずの混合物が麗日の髪につかないように、彼女の髪を後ろで持って、指示を待っていると、爆豪を連れたオールマイトが現れた。
「お疲れさん!とりあえずモニタールームへ移動するぞ!」
「爆豪くん、この爆発を起こしたのは君か!?一体何を考えているんだ!」
「あれっ…デクくんは…?」
「反省は後!まずはこの危ない建物から移動するぞ!」
『…勝己』
核、守りきれなくてごめん、と向が側まで行って謝ると、爆豪は視線を合わせることなく、汗が滲んだ顔を歪ませた。
「…うぜぇ、黙れ」
『……?』
「ハイハイ!みんな!移動するぞ!」
ひどく混乱しているように見える爆豪と、並んで歩く。
医務室へ運ばれたという緑谷について、麗日と飯田が心配そうに言葉を交わす中、その二人の背後を歩く爆豪と向の間には、一言も言葉が交わされることはない。
『……勝己、怪我は?』
「してねぇよ、黙れ」
放っておいてほしいのか、と彼の言葉の意図を読み取り、向はおとなしく静かにしていることにした。
モニタールームへ着いて、講評を交えながら、画面に映し出されるリプレイ映像を見た。
画面の中で荒々しく、猛々しく戦う爆豪の姿を目に映し。
向は、ぼんやりと、こんな感想を抱いた。
(……勝己は、かっこいいなぁ)