第70章 遠い道のり
騒がしい解説者たちが職を追われた直後。
向がバスへと乗ってきた。
二人の茶番のせいですっかり結末が気になってしまっている前方に座っていた生徒たちは、彼女がどの座席に座るのか、振り返ってジッと見守り続ける。
『…………。』
(どこだ……どこに座る…?)
(どっち…どっちだ…!)
完全に林間合宿への期待値が盛り上がりすぎて、テンションがおかしくなっている1-Aのメンバー。
向は、爆豪と轟の座る列で足を止め、左右を交互に見た後。
『………。』
眉間にしわを寄せ、立ち尽くした。
『…勝己』
「…!」
隣、良い?
そう問いかけてくる向に、爆豪が驚いた顔をした。
「……………おぉ……」
『嫌ならいいや』
「嫌なわけねぇだろテメェ殺すぞ」
『どっちが本心?』
「とっとと座れや!!!」
『おぉ、ありがとう』
((((ばっ…爆豪……!!))))
幾度となく繰り返された戦いの新しい結末。
素直になれないが故に、教室の座席以外では一度も彼女の隣を勝ち取ったことのなかった彼の念願がようやく叶った。
(しかも選んだのは深晴…!)
(爆豪くん、きてるよ!!!)
(行け、押せ!!爆豪!!!)
(爆豪ちゃん、ファイト)
あからさまな好意が見て取れるのに、彼女に全くと言っていいほど相手にされない爆豪をいつも影から見守っていた女子たちが、感動に打ち震える。
爆豪の隣に座り、もはや早々にお菓子を開け始めた向を横目で見て、顔をしかめていた轟。
そんな彼が窓へと視線を移した直後、彼の肩を、トントンと誰かが叩いた。
「……?」
もう一度視線を通路側へと向けて。
見上げた先には、まばゆいポーズを決めたまま轟に視線を向けてくる青山の姿が。
「ねぇ、思い悩んでるみたいだね。君さーーー」
僕に、恋愛相談してみない?
そんな危ないクラスメートの怪しい勧誘に、轟は少しおののいて。
カケラも考えてみることすらせず、首を横に振った。